2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。
中長期のメガトレンドを捉える
今回も前回に続いてサイクル、トレンド、メガトレンドの話をしたい。いろいろな起業家のメンタリングをする際に、単なるサイクルやトレンドのことを、「これが世界の不可逆的な変化=メガトレンド」だと捉えて分析している事業資料を見かける時があるが、これは危険なことだ。
確かに、1~2年のスパンで見たら、多くの人に興味を持たせられるかもしれないが、ある一定期間を過ぎると、その勢いは減速していく。
たとえば、昨今の韓流ドラマやK-POPブームで、それに対する需要は確かに高まっているだろう。
では、それに全張りして、「韓国コンテンツ専門の動画サービス」を作ったとしよう。その市場におけるここ3年のCAGR (Compound Annual Growth Rate:毎年の市場規模の伸び)が30%だったとして、それが未来永劫続くかどうかは疑わしい。
遅かれ早かれ勢いは減速し、毎年30%伸びる前提に合わせて投資していたら、「過剰投資」になってしまうはずだ。
下図に、私が考える過去から少し先の未来までを時間軸に置いたメガトレンドをまとめたので、参考にしていただきたい。
API:Application Programming Interfaceの略。ソフトウェアやプログラムの間をつなぐインターフェースのこと。
スマイルカーブに注目
時代が変遷していく中で注目するべきは、図の真ん中にあるスマイルカーブである。
日本経済が強かった1960~90年代までは、少品種大量生産×ハードウェアの時代だった。1990年代に入りパソコンやITが浸透してきてから付加価値の源泉は、製造よりもサービスや企画に移っていく。
そして2000年代に入り、モバイルインターネット×クラウド×ソーシャルが台頭してくると、付加価値は、パーソナライゼーションによる企画やユーザーのサクセスにシフトしてきた。
今後は2030年のSDGs達成も視野に置きつつも、インパクトやパーパスに付加価値が移っていくと予想される。
起業参謀の着眼点
・自分たちがターゲットとしている市場/領域における、「サイクル」「トレンド」「メガトレンド」の切り分けができているか?
・一時的なハイプやサイクルに惑わされて事業を立ち上げようとしていないか? 事業の着想が、中長期的な「メガトレンド」と同調しているか?
などの点に注意しよう。
(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。