「自分の思い通りにならなくて当然」と考える

 相手は自分とは違う人間ですから、自分の思い通りにならなくて当然。責めたり批判したりしないで、相手の決定を尊重すべきだということです。

 相手との距離が縮まるということは、ふたりの人間がひとつになることではありません。愛情でも友情でも、ふたりが親密になるために必要なことは、相手が自分とは違う人間であるという事実を認めて尊重することです。

 互いの距離が保てれば、相手の領域をむやみに犯すこともありません。それでこそ相手も心を開き、お互いの理解を深めようとするのです。したがって、親しき仲というのはゴールではなく道のりであり、親しき仲を維持するための努力もまた必要なのです。

 関係が深まるにつれ、「私たちの仲なのに、こんなことまで気を遣わなきゃならないの?」と考えがちですが、親しき仲にも礼儀ありです。相手が何事も受け入れてくれると期待してはいけません。また、相手の弱点をつついたり、プライドを傷つけるような言葉も避け、お互いの信頼を第一にしましょう。42歳でパーキンソン病と診断され、65歳を過ぎた今、強くそう思います。

 古くからの教えに、「家族とは、涙で歩む人生の道のりにおいて、もっとも長く、もっとも遠くまで、見送ってくれる人だ」というものがあります。家族に限らずとも、自分のことを信じて支えてくれる人たちの存在があれば、人は不安な人生でも一歩一歩、前に進む力を得られるのです。

(本原稿は『もし私が人生をやり直せたら』から一部抜粋、追加編集したものです)