労働者の意思に反する
退職勧奨は違法のおそれ

 使用者が労働者に辞職するよう説得する行為、または退職する旨の合意をするよう説得する行為を退職勧奨といいます。

 退職勧奨は、労働者に辞めてもらいたい事情がありつつも、解雇を正当化するほどの事情まではない場合や、ある程度解雇を正当化する事情がある場合でも、穏便に解決することにより紛争化することを避けたい場合などに行われます。

 退職勧奨は、労働者の自由な意思を尊重した態様で行う必要があり、この点が守られている限りは、基本的に自由に行うことが可能です。労働者が退職勧奨に応じる意思がないことを明確に示したにもかかわらず執拗に退職勧奨を継続したり、多人数で取り囲むように説得を行ったり、説得の時間が長すぎたり、頻度が高すぎたりした場合には違法となります。また、労働者の名誉感情を不当に害するような侮辱的な文言を使用した場合にも違法になる場合があります。

 裁判例においても、労働者が退職勧奨に応じない旨を明確に述べているにもかかわらず、従前と同様の説得を執拗に繰り返した場合には退職勧奨は違法となり、使用者には慰謝料の支払義務があると判断するものがあります。そのため、労働者が退職勧奨に対して拒否する意思を明確にしたか否かがポイントになります。労働者が拒否していない場合には、不当な方法によらない限り、話し合いを継続することは許容されると解されますが、退職勧奨に応じる意思がない旨を明示したにもかかわらず漫然と説得を継続することは、違法となるリスクが大きくなります。勧奨に応じて退職する意思がないことを明示された場合には、相応の期間を置く、もしくは一定の事情変更があってから行う、または提案する退職条件を変更するなどを検討する必要があります。

 本件では、退職勧奨に応じる意思がないこと、これ以上の退職勧奨はしないでもらいたい旨をXが表明しています。それにもかかわらず、A社長は翌日、翌々日と1時間以上にわたって退職勧奨を行っています。そのため、退職する意思がないことを明示しているにもかかわらず、執拗に退職勧奨を行ったものとされる可能性が高いといえます。