センチネリアンが証明し続ける
見えないストレスのチカラ

 実際には、日本の9万2000人ものセンチネリアンの人たちが皆、牧場暮らしということはありません。しかしながら、幼年環境と寿命が強く結びついていることは科学的見地からも知られています。

 たとえば、幼少期の重篤な栄養不足は疾患のリスクになり得ます。逆に先述の通り、軽度なストレスが細胞の中で記憶されれば、健康や寿命にポジティブな影響をもたらします。日本でも流行になっているサウナは、心血管疾患のリスクを長期に予防しますし、断続的な絶食(ファスティング)が糖尿病、がん、心臓病、神経変性への予防効果があることも示されています。要は、ストレスにもプラスとマイナス双方の効果があるということをセンチネリアンの人々も教えてくれているのです。

 ちなみに、同じストレスでも人によって受け止める度合いが異なるのも、先述の通りです。

「じゃあ、どれぐらいのストレスならば、プラス面の効果だけにできるんですか?」

 そんな質問を私も時折受けますが、残念ながら、ストレスの良し悪しを測る目安は今のところありません。ただし、エイジング・クロック(編集部注/生物学的年齢の測定)が確立されれば、一定の指標が生まれてくると思われます。たとえば、

ストレスは老化の敵なのか?「100歳超の人たち」研究で判明した意外な事実『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』(早野元詞、朝日新聞出版)

「あなたは55歳ですが、健康年齢は40歳前後なので、毎日30分ほどの筋トレを続けると効果的でしょう」

「あなたは55歳ですが、健康年齢は60歳を超えています。毎日6000~8000歩は歩くように心がけてください」

 などといったアドバイスを受けられるようになる。あるいは、近未来の社会では、「40歳の身体に戻るために、この薬を毎日服用してください」と、若返りの薬を処方されるようになるかもしれません。

 いずれも人体の細胞レベルで老化度が測れる未来においては、何歳になっても「理想の健康年齢」を主体的に維持できる社会になるでしょう。