権威で後退させられた詩人の直感
Twitterで等身大を取り戻す

開沼 等身大という言葉について教えてください。背伸びをしたり、卑屈になることなく、等身大でいることはたしかに大切です。ただ、「単なる等身大」だけでは、自分では納得できても、世間を納得させることはできないのではないかとも思います。つまり、等身大が「自分のモノサシを押し出す」ということであれば誰でもそれなりにできますが、他の人ではできない卓越性を獲得するためには、一方で「世間のモノサシ」でも評価されなければなりません。

 そこで、若くから雑誌や新聞で批評の執筆をされたりと、和合さんが詩の世界で認められた理由として、ご自身の詩の何が優れていたからだとお考えですか?その世界の権威になるということは、少なからず「権威的な枠組み」を自分の中に取り込み、内在化できている側面があったんだろうと思います。ただし、「世間の権威」と「自分の等身大」には当然ズレがあるでしょう。震災によってそのズレに気づかされたということですか?

和合 批評をずっと続けてきましたけど、批評行為というのは「何を選ぶか」「何を伝えるか」ということにかかってきます。まずは「選ぶ」ということが前提にあり、さらに、それを「伝えていく」ということを10年やってきましたが、だんだんと自分のなかで飽和していくんですよね。

開沼 飽和するとは具体的にどういうことでしょうか?

和合 例えば、3冊選ばなきゃいけないとなると、面白いものがないときも3冊選ばなければいけません。毎月とにかく選んで「これがいいんです」としていると、時評という行為が虚像になっていくんですよ、自分のなかで。詩が見えなくなっていくんです。

 自発的に詩を見出だし、そこから良さを見出して書くというよりは、「とりあえずベスト3を選んで書く」となってしまいます。もちろん、いい詩集と出合えたときには迷いませんけど、毎月凄いものとは出合えないですよね?出合わないときのほうが多いわけですよ。

 すると、自分の中で、詩を読む本能や直感のようなものがだんだんと後退し、とにかく分量を書かなければいけないという理性ばかりが前に出てきます。もしかしたら、それが権威というものと結びついたのかもしれないですね。

 例えば、誰もが知っていて、とても好まれている谷川俊太郎さんの新しい詩集を取り上げたほうが、詩に触れていない多くの人にも書いた記事を読んでもらえる感じがある。どうしてもそんなことを……、媒体での受け止められ方を意識するようになる。時評者としての権威というものが、詩人としての直感を後退させていったのかもしれませんね。

開沼 なるほど。

和合 それに対して、Twitterは裸一貫です。最初は4人くらいしかフォロワーもいませんでした。無事だということを伝えるために4人に詩を贈ったところから始まっています。結果的に、権威とは関係のない場所に言葉を投げることになりました。

 ある評論家からは「水を得た魚のようだ」と言われたんですよ。2時間、3時間も書き続けられたのは、すべてをぶん投げて枷のようなものがなくなったからだと思います。そこでたどり着いたものが等身大の自分ということなのかもしれないですね。

開沼 震災後、誰かと話をしていて等身大を感じたことはありますか?

和合 例えば、飯館村で酪農家をしているHさん。Hさんと初めてお会いしたとき、彼は飯館弁丸出しで当時のことを語ったわけですよ。その言葉を聞いて真に迫ってくるものを感じました。新潮社の編集者も「方言をそのままで載せましょう」と言って、「ほだこといってもよ」とかそのまま載せているんですよ。この感覚は開沼さんも感じていることじゃないですか?

開沼 そうですね。「これは絶対ほかにはない、世界中でも歴史上でもこの人しか持っていない表現だな」という瞬間に出合うときがあります。そのときは物書き冥利に尽きます。

和合 「詩の礫」でも、僕が被災したみなさんの話を聞いて感じたものと同じ感覚を持っていただきたいですね。投網のようにしてそれを探していきたいなと思います。

ありもしないゴール、「結」を求める身勝手な人々によって描かれる福島。そこには、復興や除染が抱える本質的な課題は置き去りにされている。
和合氏との対談最終回は、『起承転転』と『漂白される社会』で表現され、両者に共通する問題意識の核心に迫る。次回更新は、4月30日(火)を予定。


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『漂白される社会』(著 開沼博)

権威で後退させられた詩人としての直感 <br />自分のモノサシで等身大の違和感を伝えたい <br />【詩人・和合亮一×社会学者・開沼博】

売春島、偽装結婚、ホームレスギャル、シェアハウスと貧困ビジネス…社会に蔑まれながら、多くの人々を魅了してもきた「あってはならぬもの」たち。彼らは今、かつての猥雑さを「漂白」され、その色を失いつつある。私たちの日常から見えなくなった、あるいは、見て見ぬふりをしている重い現実が突きつけられる。

 

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