定年後、上司と部下が入れ替わり
「結局あなたは何ができるの?」と聞かれるのはつらい
さまざまなキャリアを積み重ね、定年までは総務部長として働いていた菱谷さん。新規事業の原点は、自身の問題意識にあった。
「総務部長として経費を見ている中で、1店舗につき月数十万~100万円を超える清掃費を払っていることに気付いたんです。これをどうにかして抑えられないかと考えていました。グループワークで『清掃を自社でできないか』という話になり、そこから『清掃会社を立ち上げればいいんじゃないか』というアイデアが生まれました。57歳からハウスクリーニング事業について調べ始め、あるハウスクリーニングのフランチャイズに加盟して清掃技術を習得し、59歳でルネチャレにエントリーしました」(菱谷さん)
普通に再雇用制度を活用し、慣れ親しんだ総務部で働き続けることもできたはず。それでも人生初のチャレンジを選んだのは、自分にできることを見つけたかったからだという。
「総務部の部長って、現実的にはつぶしが効かないんです。総務の実務ができる人は他にもたくさんいる。定年を迎えて上司と部下が入れ替わり、『結局あなたは何ができるの?』となるのを想像したら嫌だなと。誰にどう思われるかよりも、自分が嫌だと思うことをやり続けなきゃいけないのが嫌だなというか。だから、自分にできることは何かと考えました。転職や異動も考えましたが、ルネチャレのおかげで、こうして新規事業にチャレンジすることができました」(菱谷さん)
菱谷さんは「少しネガティブかもしれないけれど」と前置きした上で、「60歳を超えるとその先が見えてくる。『やりたくないことはやらない』と、わがままを言ってもいい時期なんじゃないかな」と語る。菱谷さんの「わがまま」は言葉の綾で、「誰かの役に立ち続けたい」が、その正体に思える。率直に、自分もこうなれたらいいなと思った。
「自分で自分の居場所を作れたら成功なのかなと思います。事業でなくても、自分がこうしたいという役割を作れたら。清掃は非常に奥が深く、覚えなきゃいけないことがたくさんあります。一番充実感があるのは浴室清掃ですね。ビフォーアフターが分かりやすい。家でもカビを見つけると『こいつはやっつけなきゃ』と。おかげで、少し前にMRIで引っかかった脳が元気になってきました(笑)」(菱谷さん)