「自分のキャリアを俯瞰」「ロールモデルを探す」
人事ではなく、社員のためのタレントマネジメントシステム

 ルネサンスでは、クラウド統合人事システム「COMPANY」を導入し、多様な人事情報を一元管理している。今後は特にタレントマネジメント領域での活用を見込んでいるという。

 一般にタレントマネジメントシステムといえば、従業員の経歴やスキルを一元管理する「人事のためのシステム」という印象だ。しかし、人事部長の日野さんは、「従業員一人ひとりが経歴、スキル、目標などを記録し、自身を俯瞰(ふかん)できるキャリア開発ツールとして社内に浸透させていきたい」と語る。

「キャリアの主役はあくまでも従業員一人ひとり。自分自身の軸を持ちつつ、常に新しい挑戦の機会を見出し、それをサポートできるようITをうまく活用していきたい」(日野さん)

 キャリア戦略を考える上で、ロールモデルの存在は大きな影響力を持つ。しかし、従来の職場環境では、一緒に仕事をする人が限られ、ロールモデルを見つけることが難しいケースも多かった。日野さんは、「COMPANY上で他の従業員のキャリアパスや専門性が閲覧できるようになれば、より多様なロールモデルとの出会い、より豊かなキャリア設計を後押しできるだろう」と期待を込める。

キャリア戦略のポイントは
専門性を持ち、自分のブランドを築くこと

 菱谷さんは、キャリア戦略の核心について次のように語る。「今の居場所でスペシャリスト的な知識と技術・経験をしっかり身につける努力は、したほうがいいと思います」。

 専門性を持つことで、組織内での自分の位置づけが明確になり、新たな機会を見出しやすくなる。菱谷さん自身、総務での経験や問題意識があったからこそ、清掃の内製化というアイデアにたどり着いた。

 次に重要なのは、自分自身のブランドを確立することだ。菱谷さんは、「これなら負けないと自信を持って言えるものを持つ努力が、自分の強みや独自性を引き出し、周囲に認知してもらうことにつながるのでは」と語る。

「ブランドを確立するとは、“人在”ではなく、“人財”を目指すことに近いと思います。例えば総務なら、業務内容は決まっているかもしれませんが、それに甘んじず、会社の仕組みや動きを少し違った角度から見てみることで、ひょっとしたら独自の視点や考え方が養われていくかもしれません」(菱谷さん)

 実は菱谷さん、筆者と同じ30代の頃は、「キャリアを戦略的に考えたことはなかった」と振り返る。41歳で同業他社からルネサンスへ転職し、49歳で一度ルネサンスを退職、50歳でルネサンスに再入社するという経験をしている。一度ルネサンスを離れていた間には運悪くブラック企業に出くわして、3カ月で退職勧奨を受けたこともあったそうだ。50歳を超えてからも、自分の軸、自分のブランドは見つけられる。ライターの仕事が紙からパソコンへ、そして生成AIも活用するようになったように、仕事の形ややり方は必ず変わっていく。人生100年時代のキャリア戦略のカギは、年齢に関係なく強みを磨き、制度をうまく活用しながら、自分にできることを再発見していくことにあるのかもしれない。