それから18年後の1991年に東京大学海洋研究所はマリアナ西方海域でレプトセファルス(生まれたての赤ちゃんうなぎ)約1000尾を採取し、おおよその産卵場所をつきとめました。塚本教授らの研究グループは、さらに探求を続けます。

 ついに2005年、マリアナ諸島西方海域でふ化したばかりのプレレプトセファルスを大量に採取することに成功し、ニホンウナギの産卵地点を発見したのです。さらに2009年には西マリアナ海嶺の南端で待望のうなぎの卵31個の採取にも成功しました。

大西洋ウナギの産卵場の
新説を2020年に発表

 この時点で天然うなぎは何を食べているのかさえわかっていませんでした。塚本教授は、他の研究者と共同で、長年の謎だったレプトセファルスが何を食べて大きくなるのかを研究します。結果、海洋表層の植物プランクトンや動物プランクトンの死骸が分解されてできる、マリンスノーを食べて育っていることがわかったのです。

 塚本教授とは「東アジア鰻学会」の懇親会でお話させていただいたことがあります。2016年のことです。「うなぎ大好きドットコムといううなぎ屋さん応援サイトを運営している高城と申します」と、私が自己紹介すると、教授は「私もうなぎ大好きですよ」と答えてくださり、「うなぎは日本の大切な食文化ですからね。がんばってください」と励ましのお言葉をいただきました。「うなぎがいなくなれば、その食文化が消えてしまいます。うなぎの生態をさらに解明して完全養殖につなげていきたい」と熱く語っていらしたのが印象に残っています。このころはうなぎの完全養殖が緒に就いたばかりでした。

 この後、塚本教授は物理学者も加わった日仏の研究チームによって、大西洋ウナギの産卵場が、長年定説とされてきた海域より東の、大西洋中央海嶺付近にある可能性が高いとする新説を2020年に発表しました。今後の研究成果にも世界が注目しています。