「化石はニセモノではない」
ハンターを見つけ出した研究者の執念

「この標本はあまりにも変わっていて、保存状態も悪かったから、私たちはずいぶん長い時間をかけてやっと、この(棒状の骨の)構造を確認したんだよ」

 徐星は後日、中国の教育紙『中国教育報』(2016年2月22日付け)のインタビューでこう話している。イは最終的に2015年5月に「ネイチャー」誌上で報告されたが、発表に先立って徐星たちが心配したのは、この変な骨をニセモノではないかと疑われてしまうことだった。

 盗掘者から売り込まれる化石は、貴重な標本に見せかけて買取価格を釣り上げる目的で、いくつか別の化石を組み合わせて作られている場合もあるからである。当時はすでに「2つのシノサウロプテリクス」やアーケオラプトル事件から10年以上の時を経ていたとはいえ、中国の恐竜業界には常にこうした怪しげな問題が付きもので、研究者の悩みの種なのだ。

 だが、イの化石は徐星のスタッフである丁暁慶がみずからクリーニングしており、捏造が疑われる余地はほとんどなかった。徐星たちはさらに、例の棒状の骨の化学組成も分析して、納得できる結果を得ていた。

 加えて、徐星のチームはイを売り込んできた河北省の化石ハンター・王建栄を見つけ出し、彼からイを掘り出した採石場の場所を聞いて現地調査をおこない、地層と年代も特定した(逆に言えば、中国で盗掘されてから博物館に売り込まれる化石には、正確な発掘場所や地質年代がよくわからなくなっているものが非常に多いということである)。

 こうして、前代未聞の変わり者飛行恐竜、イは世に出ることができたのだった。

 前出の「COSMOS」記事によると、徐星はイの発見によって、同じように長い第3指を持っているスカンソリオプテリクスらについても、イと同じく皮膜をもっていたのではないかと考えているとのことである。

 もっとも、イの皮膜が実際はどのくらいの面積を持っていたのかはまだわかっていない。皮膜が指先の部分だけで扇状に広がっていたのか、腕の付け根から広い範囲で付いていたのかについても不明である。