物価高騰、超コスパ時代。1万円の料理は千円の10倍おいしいのか? 「安くてうまい」が本当に最強なのだろうか? そんな疑問の答えを導き、人生をより豊かにする知的体験=美食と再定義するのが書籍『美食の教養』だ。イェール大を卒業後、世界127カ国・地域を食べ歩く著者の浜田岳文氏が、美食哲学から世界各国料理の歴史、未来予測まで、食の世界が広がるエピソードを語っている。「うなずきの連続。共感しながら一気に読んだ」「知らなかった食文化に触れて、解像度が爆上がりした!」と食べ手からも、料理人からも絶賛の声が広がっている。本稿では、その内容の一部を特別に掲載する。

【美食の哲学】チェーンの飲食店に100回行けるのに、わざわざ高級レストランに行く人の納得の理由Photo: Adobe Stock

高級レストランが高い理由は?

 こんな問いかけをもらうことがあります。

「どうして何万円も払って、わざわざ高級レストランに行くのか?」

 僕の妹は、美食に興味がありません。コース5万円の店に連れて行くと、チェーンの飲食店に100回行けるのに、と文句をいいます。確かに、500円の食事でもお腹は満たせる。妹は全財産を演劇につぎ込むような人なので、食は栄養補給の手段であり、おいしくないよりはおいしいほうがよい、という考え方なのでしょう。これはこれで、生き方としてありだと思います。

 5万円のお店は何が違うのか。その価値がないのに5万円取っているお店は別として、いくつかの可能性があります。まずは、場所代(賃料)や店内の設え、人件費などにお金がかかっている店。そして、高級食材を使っている店。また、料理人の技術やアイデアが卓越している店もあります。

たった1%を高める努力

 では、1万円の料理は1000円の料理の10倍美味しいのか。この比較自体ナンセンスではありますが、価格と美味しさは直線的に比例するわけではなく、高額になればなるほど限界的な美味しさは低減していくのが一般的だと思います。

 これは、技術やアイデアでも同様です。95%完成しているものを、時には一旦ゼロからやり直して100%を目指すことも辞さないのがクリエイター。

 結果的に96%に到達したとして、その1%にどれだけの労力と時間がかかっているか。だから、100%を目指してそれに近づけば近づくほど、1%の差分にかかる対価が大きくなり、価格と美味しさは比例しないのです。そして、この量的には小さいけれど、質的には大きい差分を理解し、評価するのが「美食」の考え方です。

(本稿は書籍『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』より一部を抜粋・編集したものです)

浜田岳文(はまだ・たけふみ)
1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約127カ国・地域を踏破。一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。2017年度「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から6年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。株式会社アクセス・オール・エリアの代表としては、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの出資も行っている。