その後に明らかになった情報では、事前にシークレットサービスと地元警察の間で警備責任の縄張りが決められ、シークレットサービスは会場内担当だと決められたそうです。犯人が上った屋根についてシークレットサービスは問題を指摘したのですが、管轄外だとして警備要員を配置できませんでした。
今回の記事では、これは何を意味するのか?をリアルに考えたいと思います。
「CIAが犯人をトレーニングした」
トンデモ理論が生まれる背景は?
先に陰謀論的な意見を封じておきます。
「CIAがひそかに犯人をトレーニングして、わざと会場警備に穴をつくって、事前の作戦どおり屋根の上に登らせ、トランプ氏を撃つまでシークレットサービスにも射殺をとどまらせた」というのは妄言です。
しかし、このような妄想がSNS上で広まるようになった背景理由が存在することは事実です。
戦後、1950年代を中心に、CIAが中南米などで暗殺事件を企ててきたという事実が判明しているのです。
当時、反共目的のためにアメリカにとって都合の悪い政権を倒して、親米政権を打ち立てる工作が実際に行われてきたことが、機密情報の解除でわかっています。政権に反対する勢力を育てたり、武器を供与して内戦状況を作ったりといった複数の手段の組み合わせで政情不安を作り出すオペレーションがCIAや軍部によって行われました。
その手段のひとつに暗殺計画の支援があったことも周知の事実です。
有名な例としてはキューバの指導者カストロは天寿をまっとうしたのですが、CIAから何度も暗殺計画を企てられていたことが知られています。
問題は1960年代です。今でも藪の中の事件がたて続けにおきた10年間です。アメリカではケネディ大統領が暗殺され、続いてキング牧師、ロバート・ケネディ上院議員と、存命であれば国の政治を変えていったであろう人物が暗殺で命を落としています。それぞれ犯人は捕まっているのですが、その裏に陰謀があったのかどうか今でも疑いを向ける人は少なくありません。
そしてここが重要な転換点ですが、1970年代以降、アメリカ政府が関わったとおぼしき要人暗殺は下火になります。ひとつの転機としてフォード大統領がCIAによる非合法活動に一定の制限を加えたことが大きかったともいわれますが、ここは私の専門外でもあり詳しくはわかりません。
その後もレーガン大統領暗殺未遂など政治家を狙った事件は起きていますが、いずれも政治的思想をもった単独犯が起こしたと考えられる事件です。海外のオペレーションでも2003年のサダム・フセイン拘束や2011年のウサマ・ビン・ラディン殺害のようにアメリカ政府が完全に情報開示できる事例しか起きていません。
南米にはあいかわらず反米をかかげる政権が複数存在しますが、これらの政治家たちは50~60年代のように暗殺でいなくなるケースは激減し、むしろ健康を害して一線を退くひとが大半です。