医療財政の圧迫や人手不足が追い風となるのが医療ITセクターだ。新型コロナウイルスバブル後は株価低迷が続く「元最強のグロース株」エムスリーも、足元では着々と事業領域と展開国を増やす「サグラダファミリア計画」を進行。JMDCもデータを武器に新たな軸の構築を目指す。特集『日本再浮上&AIで激変! 5年後のシン・業界地図』(全16回)の#5では新興プレーヤーも含めた5年後の勢力図を予測した。(ダイヤモンド編集部 篭島裕亮)
オンライン診療や病院DXなど
ビジネスチャンスが拡大
「潜在市場は国内だけで1兆円以上」――。縮小均衡が続く業界がある中で、雨後のたけのこのごとくベンチャー企業が誕生しているのが医療ITセクターだ。
従来、日本の医療ITの上場企業は、医師会員サイトをベースとする製薬企業向けマーケティング支援と医療データ利活用の二つが注目されてきた。製薬マーケティング支援は医師への情報提供、MR(医薬情報担当者)の生産性改善に、医療データは患者の動態分析、製薬企業の業務効率化に活用される。
そして現在、5年後を見据えて新しい市場も立ち上がりつつある。医療財政の悪化もデジタル化を後押しする。オンライン診療や医療機関、薬局のDX(デジタルトランスフォーメーション)、治験など、ビジネスチャンスが拡大しているのだ。
SMBC日興証券の徳本進之介シニアアナリストは、将来の医療IT関連の潜在市場規模を、製薬マーケティング支援が3000億円、医療データ利活用が1000億円、治験業務が2000億~3000億円、健保業務が2000億円、医療業務が2000億円と想定。国内だけで1兆円超の潜在市場とみている。言い換えると、各社の売上高合計の「数倍以上の市場」に向け、今後10年間で拡大していくということである。
とはいえ、成長市場ほど競争が激しいのは世の常である。「事業機会が増える中で、各社の戦略がより問われる局面になり、優勝劣敗へ二極化が進む」(徳本氏)からだ。
金融環境の変化でバリュエーションが落ち着いたこともあり、資本を用い、数年先の覇権を巡る合従連衡も加速している。
「個別性のあるマーケットで活躍する企業は残るでしょうが、数千億の売上高を狙う椅子に座れる企業は限られています。特に資本力のあるエムスリーとJMDCはM&Aを加速させています」(徳本氏)
次ページでは医療ITビジネスの5年後を予想しつつ、各社の変革の中身を紹介。
株価は2021年の高値から70%下落したエムスリーだが、着々と進める「サグラダファミリア計画」とは何か。JMDCが大手メーカーと提携する意味とは?
成長業種だけにベンチャー企業の参入も目立つが、業界の序列は変わるのか?優勝劣敗が進む中、5年後に伸びる会社、失速しかねない会社の格差や、ダークホース候補についても具体的に明らかにする。