日本最大級の住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」(株式会社MFS)を運営する塩澤崇氏が、住宅ローンにまつわるお金の新常識を解説した決定版『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』を5月に上梓した。これから借りる人だけでなく、すでに借りている人が読んでも役立つアドバイスが満載の本書は「もっと早く出合いたかった」と反響を呼んでいる。今回は、「利上げがあるのでは?」と憶測が飛んでいる今月末の日銀金融政策決定会合を前に、住宅ローンと家計の関係について塩澤氏に伺った。(聞き手/『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者 安達裕哉氏、構成/ダイヤモンド社 根本隼)

【住宅ローン】審査に落ちやすい「危険ライン」は年収の何倍?

年収の8倍を超えると、審査に落ちる可能性が高い

――住宅を買うときは、年収の何倍くらいまでが「手を出しても大丈夫」なラインでしょうか?

塩澤崇(以下、塩澤) まず、年収の7倍までなら、住宅ローンの審査は通ります。年収の7~8倍だと、もしかすると審査が通らないかもしれません。年収の8倍が危険ラインで、これを超えると審査に落ちる可能性が高いです。

――年収の8倍となると、かなり怖いですね。

塩澤 そうですね。確実に審査をパスしたかったら、「年収の7倍」というラインを気にするべきです。

 ただ、もう1点、「無理なく返済できるのか?」という自分自身の家計に寄り添った観点も非常に大切です。この場合、私のお勧めは「年収の5倍まで」を基準に物件を探すことです。

――なるほど。そこが安全ラインということですね。

塩澤 はい。今後、金利が緩やかに上昇していきますので、借入額を大きく伸ばすのは、少し危険かなと思っています。もちろん、家計のあり方は人それぞれですが、一つの目安として「年収の5倍まで」なら返済に無理がないのではないでしょうか。

頭金も繰り上げ返済も必要ない

――物件価格に対するローン借入額の割合は、どのくらいがいいでしょうか。

塩澤 私は基本的にフルローンでいいと思っています。つまり、先ほど申し上げた年収ラインが問題なければ、あとは全額借りてしまっていいということです。

 いまやインフレの時代を迎えているので、頭金を貯めようと頑張っている間に、不動産価格はどんどん上がってしまいます。なので、買うのであれば、早ければ早いほどいい。

 しかも、視点を変えると、頭金は「住宅ローンの返済開始0秒」で返すお金です。でも、どうせ払うなら、住宅ローンはフルで借りておいて、頭金になるほどまとまったお金は長期投資に充てた方がいいと思います。

――住宅ローン、今は超低金利ですもんね。

塩澤 その通りで、住宅ローンの金利は0.2~0.3%と非常に低いです。一方、長期の分散投資だと、2~3%という利回りも珍しくありません。であれば、頭金などに使わずに、リターンがある対象に使った方がよほどいいわけです。

――その話でいうと、「繰り上げ返済」もダメですかね。

塩澤 繰り上げ返済は禁止です(笑)。やってはいけない。

 基本的には約定弁済で、35年間というスケジュールのもと、淡々と返済を続けていく。そして、手元の余裕資金は、株式や不動産投資といった資産運用に回す。これが一番です。

 今はインフレの時代なので、日本円の貨幣価値がどんどん目減りしていきます。逆に、資産価値はますます膨れ上がっていきます。

 住宅ローンにまつわる「賢いお金の使い方」が、以前にもまして重要になっているので、ぜひ後悔しない選択をしてほしいですね。

(本稿は、『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』の著者・塩澤崇氏へのインタビューをもとに構成しました)

塩澤崇(しおざわ・たかし)
株式会社MFS 取締役COO
2006年、東京大学大学院情報理工学系研究科修了(専攻:数理情報学)。同年よりモルガン・スタンレー証券株式会社にて住宅ローン証券化ビジネスを推進。2009年、ボストン コンサルティング グループに入社し、金融機関向けの戦略コンサルティングに従事。2015年9月より、住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」を運営する株式会社MFSの取締役COOとして金融機関提携・オペレーション・事業提携・広報を管掌。全国紙でのコメント掲載やTVへの出演実績も多数。『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』が初の著書。