筆者だけでなく
他社の配達員も叱られていた!

 ある日のこと、自販機に商品を充塡しようとすると機械が止まっています。他の自販機も同様です。またブレーカーが落ちたのかと小走りに倉庫へ向かい、配電盤のブレーカーのレバーを引き上げ、自販機に戻ると店主が傍らに立っています。

 昔気質の店主は出入りの業者に対しても厳しく、他の会社の配達員が叱られている姿を幾度となく目にしていました。私も「業者はお客様のじゃまにならないようにお店の中では気を配れ」「自分の労を惜しむな。配達のクルマは遠くに停めて、お客さんが楽に店内に入れるようにしろ」といったことから、「だいたい、お前のところの卸値はなぁ」とお決まりの文句をあびせられてばかりです。

「しまった、商品を自販機の前に置きっぱなしだった。また何か言われるのかなぁ」と思いつつ、「すみません。電源が落ちていたようなので配電盤を見に行ってました」と、こちらから話しかけました。

 すると店主から「少し困っているんだ。自販機の電源がよく落ちる。電気の使用量が一杯だと思うんだが、やっぱり電気工事がいるのか」との相談です。

 ホッとしながら「そうですね」とふと見ると、日中なのにすべての自販機のライトが点灯しています。当時の自販機はいまのように自動で夜間照明が点灯しないものもあり、この店では夕方になると一台ずつ照明のスイッチを入れて、翌朝消灯しなければならなかったのです。

 家族経営のお店のために手が回らないこともあり、点灯の消し忘れから多くの機材が本格的に稼働する夏場の日中にはよくブレーカーが落ちて止まっていました。

「昼間、照明用の蛍光灯をすべて消灯すれば節電になりますが、毎日朝夕の対応は手が回らないですよね」と思わず解決策にもならないことを口にしてしまいます。「ウチも朝夕は忙しいからなぁ」と店主は半ば諦め口調です。いかつい店主の顔が少し可哀そうに見えます。

「では私が手伝います。夕方は難しいですが、平日の朝ならなんとかなると思います。電源のスイッチを切るだけですから」

 私はついこう言ってしまいました。北沢酒店は私たちの営業所のすぐ近くです。立ち寄ってもそれほど苦はなさそうです。毎日となると大変そうですが、もう後には引けません。

 翌週から毎日、北沢酒店を経由してその日のルートに出発することになりました。最初のうちは少しばかり億劫でしたが、慣れてくるとそれほどでもなくなります。自販機の汚れも拭き取れるので一石二鳥です。

 そして数カ月たった頃です。

「毎朝、北沢酒店に行っているようだが何かあるのか」

 恒石マネジャーが話しかけてきました。私が事情を伝えると「そうか」との一言でさっさと自分の席に戻ってしまいました。