当時の上司が筆者に託した
「箱」の中身とは?

「さすがに毎日特定の店に行くのはまずいのか。でも、理由が理由だからなぁ」

 なんとなくすっきりとしないまま毎朝の北沢酒店訪問は続けていました。

 数日後、その日の外回りの仕事を終えて営業所に戻ると「おーい、ちょっと来てくれるか」と恒石マネジャーが私を呼びます。

「なんでしょう」

「いいからちょっと来い」

 恒石マネジャーのデスクになにやら電気部品の入った小さな箱があります。彼はその箱の中身を私に見せました。

「これはディライトスイッチといってな、明るさに反応して電源のオン・オフをやってくれるものだ。これを北沢酒店の自販機に取り付ければ、毎朝消灯に行く必要はなくなるぞ。おまけに夕方になったら自動で点灯もしてくれるから先方にとっては願ったり、叶ったり。これを持って行け」

 まさしく朗報です。「ありがとうございます」と私は深々と頭を下げました。

 次の日の朝、私は意気揚々と北沢酒店に向かい、ディライトスイッチを紹介しました。

「ありがとうな」

 店主と奥さんはさぞ喜んでくれると思ったのですが、私が期待したほどの反応ではありません。

「そんな機械があるなんて便利な世の中だなぁ、本当にありがとう」

「じゃあ、取り付けてきますね」と店の外に向かおうとしたところ、店主からこう言われました。