シリコンバレー発のAIが明日にも世界を一変させるような、まさに「イノベーション推進バイアス」に満ちた紹介の仕方が一時は溢れかえっていましたので、明日にも社会は変わるんじゃないかと思われている人も多いでしょうが、そんなはずはなかったのです。

オズボーンとコンサル業界が振りまいた
「AIがあなたの仕事を奪う」という嘘

 AI開発に勤しんでいるエンジニアの多くは「自分たちが社会を変える」と本気で信じている一方で、メディアや世間で騒がれているような「明日にでもAIが私たちの仕事を奪うのではないか?」と恐れている現状を「バカバカしい」と嘆いています。

 通常ならエンジニアほど新技術の推進に賛同しそうなのですが、AIにおいては事情が違います。むしろAIの推進に前のめりなのはビジネス系の人々で、特にコンサル界隈はAIに過剰なほど賛同するスタンスを取っています。しかし、技術者たちがそれを見て「過度に期待しないで欲しい」というスタンスを取っている、という不思議な状況が生まれています。

 実際、とくに数年前から「人工知能が仕事を奪う」といった書籍が書店にあふれていて、エンジニアでもある筆者は「それは言い過ぎだ」と思って苦虫を噛み潰すような気持ちだったと記憶しています。

 AIがこうした論調で語られるようになった発端は、2013年に英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授(当時)らが「THE FUTURE OF EMPLOYMENT(雇用の未来)」という論文に「10~20年以内に労働人口の47%が機械に代替されるリスクがある」という主張を著したのがきっかけだと言われています。

 数字と確率を用いた記述に、信憑性があると感じた人も多かったのではないでしょうか。この論文では「ガウス過程分類法」と呼ばれる、正規分布を用いた回帰分析手法を使っていると説明されています。

 簡単にご説明すると、まず米国・労働省が定義する702個の職業全てに対して、必要とされる数十個のスキルを定義し、次にオックスフォード大学内の有識者によって主体的に選ばれた70個の職業を精査して、自動化可能なら1、不可能なら0を割り振ったものを「教師データ」とします。

「教師データ」から自動化できると判断できるスキルを機械学習で発見し、それらを基にモデルを作成、最後にこのモデルを702個の職業に当てはめると、その職業がAIで自動化できるかどうかの確率が求められます。