AIによる自動化の可能性が
70%を超える職業とは?

 その結果が以下の図となります。自動化される可能性が70%を超える職業の労働人口は、全体の47%いることが分かる、という研究です。

図表:AIで職を失う労働人口同書より転載 拡大画像表示

 ちなみに、積み上げ面グラフの全面積が、米国における労働者人口を表しています。

 X軸は「コンピュータ化の確率」、つまり右側ほどAIで自動化される可能性が高いことを意味しています。サービス系やバックヤード系職業ほど自動化する可能性が高く、知識労働系職業は自動化されにくいと判断されています。

 定性的にしか評価できなさそうな「仕事がAIで自動化されるリスク」を、定量的に判断した点が非常に画期的で、この論文をキッカケに世界中で雇用と自動化の研究が行われました。

 その結果、逆にオズボーン論文に対していくつかの不足点が指摘されるようになりました。

 1点目は、実際に自動化される対象は「タスク」でしかないのに、オズボーン論文ではそのより上位概念に当たる「職業」を判断している、という指摘です。

 いわば「自動運転が完成すれば、タクシー運転手は全員失業する」といったレベルの推論をしているが、そのような分析は精度が低いのではないのか、という批判がありました。

 ヨーロッパ経済研究センターのメラニー・アーンツ研究員らは、こうした批判を踏まえ、職業をタスクに分解してAIによる自動化のリスクを検討し、「タスク」ごとのリスクを「職業」に換算する手法を採用しました。

 その研究によると、AIによる自動化の可能性が70%を超える職業は、経済協力開発機構(OECD)21カ国の平均で9%しかないと見積もっています。

図表:AIで職を失う労働人口(タスクベース)同書より転載 拡大画像表示

 2点目は、AIが普及することで新たなタスクや職業が生まれる可能性を全く無視しているという指摘です。

 例えば過去の歴史を振り返ってみると、コンピュータが登場したおかげで無数のタスクや職業が自動化されましたが、その分だけ、いやそれを上回るほどの職業が新たに生まれています。ですが、オズボーン論文はそうした新たな雇用について一切考慮していないのです。

 こうした指摘によって、オズボーン論文の発表から既に7年以上が経過した現在、オズボーン論文はほとんど否定され、反証論文が出尽くしたような状況です。

「AI脅威論」はもはや過去の神話に過ぎません。