頭をかかえるビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

数年前までは「AIが仕事を奪う」ということが盛んに叫ばれていたが、AIの普及によって新たなタスクや職業が生まれる可能性だって多分にあるはずだ。これからの時代を生きていくには、過去の常識や成功体験に囚われないで、新しい技術に適応するための準備を進めることが重要なのだ。※本稿は、松本健太郎『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』(毎日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

「イノベーションが社会をよくする」!?
人々はなぜ技術の未来を楽観してしまうのか

 技術とは本来人間の幸福のために活用すべきものだと思いますが、所詮は人間の生み出したものに過ぎません。技術でなんでも解決できると考えるのは早計です。

 ですが人間は「イノベーションによって社会が良くなる」という楽観的な見方をしがちだと知られていて、これを「イノベーション推進バイアス」と呼んでいます。

【イノベーション推進バイアス】Pro-innovation bias
 実際には弱点や限界があるにもかかわらず、社会全体が新技術の有効性を過剰に楽観する傾向。イノベーションが起きれば社会が良くなると勝手に評価しがちですが、そのイノベーション自体が起こる確率も低く、「ぬかよろこび」となるケースは多いのです。

・具体例
「高速増殖炉が実用化されればエネルギー問題はなくなる」などとかつては言われていましたが、残念ながらいまだに実用化されていません。「インターネットが社会に浸透すればオフィスが不要になる」と言われていました。たしかに新型コロナウイルスの影響でテレワークが推進されていますが、一方テレワークできない仕事の存在も再認識されており、オフィスが完全に不要になることはなさそうです。

 まさにAIが今実現しつつあるように、既存の社会を一変させるような「イノベーション」となる新技術も次々と生まれていますので、そうした新技術に期待するがあまり、ついつい「過剰評価」してしまうケースもあると思います。

 数年前より「次はこの技術が来る」といった紹介をされていた技術のなかにも、実装のハードルが思ったより高かったり、あるいはコストの問題があったりという理由で、実用化にはまだまだ時間がかかりそうな技術もたくさんあります。

 自動車の自動運転技術など、AI関連の技術はその一例かもしれません。

 障害物を認知してスピードを落とす、車間距離を一定に保つなど、運転の一部を自動化した車はすでに実用化されていますが、運転手を載せずに自律走行するような車が実用化されるのはおそらくまだまだ先の話だろうとも言われています。