企業や官公庁を移転させるべき先は?
災害犯罪に備える「奥の手」も

(9)今からでも、企業の本社機能や霞が関に集中した官公庁機能の移転候補地と仮建物の確保を計画すべきです。富士山噴火については、火山灰などで生活不能になる可能性のある自治体が、すでに群馬県など火山灰の被害を被らないであろう市町村と臨時避難契約を結んでいるケースもあります。南海トラフ地震の特徴は大きな津波です。海岸沿いの自治体は山間部の自治体との連携を今から考え、国はその支援と実施状況の点検をすべきです。

(10)実際に南海トラフ地震の発生を見据え、大連立の準備をしておくことも政権の重要な義務です。迅速な復興には迅速な立法が不可欠だからです。

(11)災害時に毎回問題となる、騒動に便乗した詐欺や強盗、空き巣などは重大罪犯として実名公開するだけでなく、今後は米国の性犯罪者のように登録制度も検討し、リスクを可視化しておくことも必要でしょう。ちなみに東日本大震災では、宮城県だけでも窃盗被害総額が約1億円、逮捕者数は7人に上り、全体で40人が検挙されました。熊本地震ではこうした犯罪が22件発生しましたが、実態はもっと多いと見られています。今までの例から、重犯が多いとも言われています。

 今でも、「匿流」などの闇バイトは暗躍しています。彼らは必ず大きな災害時に組織が巨大化します。それに対応し、厳しい罪に問えるだけでなく簡単に逮捕できるシステムの構築が大事です。

 また各ITプラットフォームに対する規制と協力要請も重要です。SNSは災害時に必須となる通信ツールですが、強盗や給付金詐欺の連絡、盗みに入りやすい空き屋情報の共有などに利用される可能性が高いです。IT企業には犯罪阻止の観点から、今から行政に協力すべき事柄について徹底的に認識してもらい、実行しなければ営業許可を出さないくらいの厳しい態度で協力させるべきです。外資系が多いIT業界は、簡単に行政指導で言うことを聞きません。EUのようにルール化も含めた厳格さで接することが必要です。

 このように、岸田首相や国会議員たちは、次の総裁選・衆院選などと浮かれている場合ではないことを自覚すべきです。状況はまさに「待ったなし」なのですから。

 なお、これまで述べてきた対策案を見て、筆者が「強権政治を推奨しているのではないか」と感じる向きもいるかもしれません。しかしこれらは、ケースによっては災害時に限定すればいい施策も多く、法律化が必要なものについては時限立法にする方法もあります。各分野の権威の意見からはっきりしているのは、これらが明らかに有用な方法であるということです。

(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)