中国宝武鋼鉄集団のトップ発言
「リーマンショック時よりも状況は厳しい」

 不動産価格の下落に歯止めがかからないため、最近では国債を選好する投資家が増えている。中国政府は、銀行に国債購入を控えるよう呼びかけているものの、今のところ目立った効果は出ていない。

 今後は地方政府の財政悪化により、年金や医療などの給付が減る可能性も大変な懸念事項だ。また、デベロッパーが破綻することへの懸念を反映し、不良債権も増加傾向で推移するはずだ。個人、企業のリスクテイクは難しくなり、銀行の利ざや低下に対するプレッシャーが高まると予想される。

 バブルが崩壊したことによる不良債権の増加、さまざまなモノやサービスの需要減少が連鎖する環境下、金融緩和で景気の本格的な回復を目指すことは難しい。中国にとって必要な政策は、まず、財政出動によって不良債権の処理にめどをつけることである。それと同時に、財政支出で経済全体に需要を喚起する。債務問題が深刻な金融機関などに公的資金を注入し、経営再建を支えることが必要だ。

 ところが、現在の中国政府は、供給サイドの支援を最優先事項に据えているようだ。7月の「3中全会」(中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議)で、政府は国有・国営企業の世界シェア拡大を目指す「国進民退」を改めて示した。

 その後、地方政府の債券発行枠も増やした。鉄鋼、電気自動車、車載用バッテリーなどの分野に補助金を出し、低価格のモノを生産し輸出競争力を高める方針だ。

 しかし、すでに鉄鋼業界では生産能力が過剰で、企業の収益状況が悪化しているようだ。世界最大手の国有企業の中国宝武鋼鉄集団のトップは、「リーマンショック時よりも状況は厳しい」との認識を示している。不動産市況の下落が続く間、中国の本格的な景気回復へのプロセスは見えてこない。