私が犯した1つの失敗

 数日後、別の用件で母から連絡があった際に「その後、腰の具合はどう?」と私はたずねました。

すると、母親は「全然よくならない。いや、ちょっとはマシになったかな?」と言うのです。私は愕然としました。「そんなはずはない。ちょっとはマシって……」。驚いたのにはワケがあります。それは、診療したその場では、母の痛みは軽減し、効果があることを確認していたからです。私は、たたみかけるようにたずねました。

私「ちゃんと、言った通りにリハビリやっているの?」
母「もちろん、やっているわよ」
私「じゃあ、今、どんな痛みが出ているの?」
母「前と同じような痛み」
私「それは変だね。もしかして、ちゃんとやっていないんじゃないの?」
母「いいえ、言われた通りにやっています!」

 堂々巡りの押し問答です。そのあと、詳しく話を聞いてみたところ、母親は独自に解釈した「母オリジナルのリハビリ」を行っていたことがわかりました。効果が出なくて当然です。 懇切丁寧かつ、ボリュームたっぷりのリハビリ指導は、すっかり「空回り」していたのです。

 このとき、脳裏に浮かんだのは「リハビリの専門家である私が、こんなにも丁寧に教えてあげたのに、言う通りにやらないなんて、なんということだ」という思いでした。善意100%であるからこそ、その気持ちをないがしろにされた感覚になったのです。しかし、相手は母親です。見捨てるわけにもいきません。

私「お母さん。痛みが続いているんだよね? 早く治したいでしょ?」
母「そんなの当たり前でしょ」
私「じゃあ、言われた通りにやってみればいいじゃない」
母「だから、やっているって言っているでしょ!」
私「自己流じゃなくて、言われた通りにさ」
母「あなたのやり方は、私には合わないの」
私「まったく頑固だな!」
母「あなたこそ何様なの!」
私「そうかい。なら好きにすればいいじゃないか!」

 売り言葉に買い言葉です。結局、5日後に母は入院となってしまいました。最悪です。リハビリの専門家を自称しながら、母親の症状の改善もできない。そればかりか、私は親とまともにコミュニケーションすらできなかったのです。