私と母親に待ち受けていた「落とし穴」

 大学病院に勤めていた頃の私は、自称“リハビリの大家”でした。というのも、理学療法士という国家資格のなかでも、さらに最上位資格となる「専門理学療法士(専門医のようなもの)」を2つ保有していたからです。

 また、日本理学療法士協会で常任幹事を務めたり、日本理学療法学会をはじめとするさまざまな学会を運営したりするなど、同業者のなかでも先頭を走っている自覚があったのです。

 あるとき、私の母親が「腰が痛い」「太もものうしろがしびれる」と訴えてきました。当然、私の専門領域ですから「任せておけ」とばかりに、仕事が終わるや否や、実家に出向いて私は診察をはじめました。

 自分の専門領域で親孝行ができるのですから、イヤな気持ちなど微塵もありません。100%の善意です。むしろ、自分が役に立てるときがやっと来たのだと、喜びでいっぱいでした。

 私は母の診察をしながら、「どこがどう痛いの?」「なにをすると痛みが強くなるの?」「痛みが和らぐときはどんなとき?」などと聞き、痛みの原因を探りました。適切な処置を行うために、これまでに培ってきたあらゆる知識を総動員し、全力で問題解決に臨んだのです。

 その結果、その場ですぐに痛みを軽減させることに成功しました。まさに面目躍如といったところです。母親が抱えていた痛みは、「生活のなかでの動作」に大きな原因がありました。

 私は自分の診立ての正しさと結果に満足し、問題解決を確信していました。その日は、晴ればれとした気持ちで帰途についたことを今でも覚えています。