「他人」と「親子」のコミュニケーションは違う

 この事実を目の前にしたとき、私はひどく落ち込みました。なぜなら、これまでの患者さんの診療場面では、今回のようなコミュニケーションの行き違いを経験したことがなかったからです。

 今まで接してきた患者さんたちは、私の言うことに耳を傾けてくれましたし、説明がむずかしくても、わかるまで何度も聞いてくださいました。母親にした説明の半分くらいの「伝え方」でも、メキメキと改善して退院されていく方も多かったのです。

 以上が私のエピソードです。どうでしょうか。もしかすると同じような経験を持っている方もいるかもしれませんね。

 このとき私は「親子のコミュニケーション」は特別なものであると知りました。他人であれば問題なく行えるコミュニケーションも親子となるとお互いが言いたいことをぶつけ合ってしまいます。しかし、親子だからこそ、親も子も相手の気持ちを思いやることがやはり重要なのです。

「いつまでも仲のいい親子」と「喧嘩ばかりしてしまう親子」の違いは、結局コミュニケーションに帰結します。加えて仲が悪くなってしまうほとんどの場合、「親が言いたいことばかり言ってくる」「言うことを聞いてくれない」というケースです。

 当然、子ども側はいい気持ちはしないですし、かつての私のようにギスギスしてしまうこともあるでしょう。そんな課題を解決すべく今回は、「歳をとった親とのコミュニケーション」をテーマに本を執筆しました。

 親子のコミュニケーションは特殊です。意図を全く汲み取ってくれないこともありますし、逆に、そこまで言っていないのに大袈裟に受け取られることもあります。こういったすれ違いを少しでも減らすお手伝いができたらこれほど嬉しいことはありません。