残念ながらそううまくはいかない。試したことはあったのだが、結果は悲惨なものだった。政府が輸入バナナへの関税を撤廃すると、アイスランドの国産バナナ産業は崩壊した。結局、エネルギーがどれだけ安価で、バナナ産地からどれだけ遠く離れていても、北極圏に接しているために日差しが非常に弱いという現実はいかんともしがたかった。

 アイスランドのバナナは成熟するまでに2年かかる。赤道地方のいとこたちの場合は、ほんの数カ月で食べられる状態になるというのに。それに、いくら地熱エネルギーが安いといっても、主要バナナ輸出国であるフィリピンやコスタリカやエクアドルでは日光が……そう、タダなのだ。このため、アイスランドで地元産のバナナを買っても全体のエネルギーコストの節約にはならない。

地産地消の応援はムダではないが
「地元産」が本物かは吟味すべき

 北極バナナは極端な例とはいえ、たとえ地元の農産物直売所であっても、ただそれだけでエネルギー効率の改善につながるわけではない。考えてみれば、地域一帯から農家がそれぞれ農産物を載せて車で販売所に乗りつけるわけである。顧客のほうも車でやって来る。それにひきかえ、食品を大量に移動させるとかなりの規模の経済が働く。

 オーストラリアの学者エルス・ワイネンとデイヴィッド・ヴァンゼッティは論文の中で、食品流通システムの効率を測るのに移動距離を尺度に用いるやり方には欠陥があると指摘した。同じ10トンの食品を積んで同じ1000キロを走るにしても、10トントラック1台で運ぶのと0.5トントラック20台で運ぶのとでは前者のほうがエネルギー使用量が少ないからである。

 個々のトラックが直売所まで来るのに、盛大に燃料を燃やすことだけが問題なのではない。顧客は普段の必需食品を買うために、いつもの食料品店にも行く必要がある。つまり、直売所に足を運ぶのはあくまでついでであって、直売所だけですべてをまかなうことはできない。さまざまな食品が効率良く集約されたスーパーにも同様の品物は見つかる(少なくともその可能性がある)わけだから、直売所に立ちよるたびに余分な化石燃料がムダにされていることになる。