「あ、かわいい」で決まった
障害ある娘を育てる母の決意
「障害があるだろうと言われたその夜だけ、泣きました。けれど、はじめて芽彩と顔を合わせたとき、『あ、かわいい……』って思ったんです。この子は障害をもって生まれてきた。治ってほしいとか思ってしまったら、存在を否定してしまうことになる。つらいことも当然ありましたけど、泣いちゃいられないですよね。この子を守っていかないと」
大高さんは思いを一度に、淀むことなく話してくれた。どれだけの自問自答が今までにあったことだろう。
時間が経つにつれ、他の子に出来ることが我が子は出来ないと明らかになっていく。
「つたい歩きをしますか」
「簡単な言葉が分かりますか」
母子手帳のチェック表が、苦しかった。
「泣いちゃいられないという思いに至れるまで、私は10年かかりました」
ふつふつと音を立て、鍋が湯気を上げる。トマトやパプリカの赤と、大根の葉やスティックセニョール(先ほど大高さんが「ブロッコリーじゃなくて、なんでしたっけね」と言われていた野菜)の緑がうつくしい。湊介君が鶏肉はどこかと箸で探している。
「お鍋は一度にいろいろ煮られるのがいいですね。私が芽彩の分を作っているときでも、湊介がひとりで食べられるし。パパはきょう夜勤ですけど、そうじゃない日は買いものや料理もよくしてくれて。私がやろうとすると『台所が汚れるからやるな』って言うぐらい(笑)。でも、パパの作るお鍋は野菜が少なくてねえ……」