ここで話は最初に登場した、大根に戻る。

書影『名前のない鍋、きょうの鍋』(光文社)『名前のない鍋、きょうの鍋』(光文社)
白央篤司 著

「近くの農家さんに収穫体験させてもらったのは、施設の子たちなんです。小学校などでよくあるでしょう?同じように体験させてあげたいな、と思ってお願いしてみたら『全然いいよ、おいでよー』って、即OKで」

 大高さんは「助けてくれる人も、いっぱいいます」と言葉を続けた。障害があるからと遠慮するのではなく、こちらからお願いしてみると受け容れて、助けてくれる人もいるのだと。展望はさらに広がっている。

「私たち親が亡くなった後も、娘がおいしいもの食べながら、みんな一緒にワイワイ暮らせる場所を作っておきたいんです。そういうケアハウスを作るまで私、死ねないなあ……」

 大高さんはそう述べて、またカラッと笑った。

筆者・白央篤司がごちそうになった鍋の主
大高美和(おおたか・みわ)さん 1982年、岐阜県土岐市生まれ。女子栄養大学卒業後、管理栄養士として病院に就職する。2010年に結婚、妊娠。臨月で胎児の発育不全が判明し、出産後に障害児であることが分かった。2018年にNPO法人『ゆめのめ』を設立、重症心身障害児のデイサービスを行う施設を運営する。東京都日野市在住、夫、2子と暮らす。