「ちょっと入らせていただきます」――
許可はまだです。失礼すぎます

 あちこちで過剰に攻撃されることもある「させていただく」ですが、相手の許可を得るべき場面では堂々と使いましょう。

「来週月曜日、休ませていただけないでしょうか」(部下から上司へ)
「来月いっぱいで、退職させていただけないでしょうか」(部下から上司へ)
「失礼ですが、ちょっと入らせていただいてもよろしいでしょうか」(会議中の部屋に)

 許可を得ようとする表現です。何の問題もありませんよね。自分が上司だったり、店の人だったりしたら……と想定して読むと分かります。

 しかし、もし次のように言ったとしたらどうでしょう。

「来週月曜日、休ませていただきます」(部下から上司へ)
「来月いっぱいで、退職させていただきます」(部下から上司へ)
「失礼ですが、ちょっと入らせていただきます」(会議中の部屋に)

 本来許可が必要な場面で、疑問形でもなく言い切る使い方は、まさに慇懃無礼(いんぎんぶれい)です。

「私、実家に帰らせていただきます」と同じ使い方ですね。

「ダメだ、嫌だと言われても、勝手にそうさせてもらいますから」という強い意志を感じます。三つ目の「ちょっと入らせていただきます」にいたっては、「失礼ですが」と前置きしてはいるものの、空き巣が入ったかと思うでしょう。

 家々に鍵をかけることも少なかった昔なら、こんな場面はいくらでもありました。ガラッと開けて「○○さーん、奥さーん……あれっ、いないかね。入らしてもらうよ。大根が採れすぎてね。置いとくよ……」。この「入らし(せ)てもらう」を謙譲語にしたのが「入らせていただく」です。今となってはそんな近隣関係は稀でしょう。オンラインで注文した品の置き配が玄関前にあるくらいで、「入らせていただきます」とはなりません。