「書類のほうをお送りします」――
ほうほう、どっちの方角へ!?

「書類のほうをお送りします」

 頼んだのは書類だけなのに「書類のほう」とは? 他にも何か送ってくるのかと思わせる「……のほう」。敬語ではないのに、敬語のように考えられている節があります。

「会議室のほう、ご案内します」「お荷物のほう、お持ちしましょうか」「連絡のほう、取ってみます」「課長のほうに申し伝えます」「ミルクティのほうお持ちしました」

 ほうほう、最近は教育が行き届いて……と感心されることはまずない「……のほう」の大盛り。「お方(かた)」という語もあるように、かつて「方」の字は貴人を直接指すことを避ける意味で使われていました。しかし、だからといって、何でも盛ればよいというものでもありません。適切に使われてこそ、言葉は「効く」のです。

 例えば、次の使い方は適切です。

●右のほうへお進みください(道案内で方角を示す場面)
●私のほうからご連絡いたします(電話をかけた相手に自分からかけ直す場面)
●平田さんのほうを推薦します(複数の中から1名を推薦するよう言われて)
●医療関係のほうに勤めています(仕事は何かと聞かれて)
●お体のほうはいかがですか(退院した人へのごきげん伺いをするとき)

 実際に方角を示したり、複数の中から選んだりするほか、仕事や病気のことなどではっきり聞きにくかったりする場面で「……のほう」を使うのは適切です。

 対して前半で挙げた例文の「……のほう」は過剰です。

「会議室へご案内します」「お荷物をお持ちしましょうか」「連絡を取ってみます」「課長に申し伝えます」「ミルクティをお持ちしました」のほうが適切。

 ないほうが、よほど「ほうほう」と感心されるのではないでしょうか。