体外受精の成功率は胚培養士のスキル次第?

 不妊治療の現場で、医師と同等に重要な役割を担うのが胚培養士(はいばいようし)です。臨床検査技師を経て、もしくは大学等で生物学に関する勉強をしたあと、特別なトレーニングを受けて胚培養士になります。

 あまり知られていない存在ですが、医師の立場からみても、不妊治療の成功率は胚培養士にかかっていると言っても過言ではありません。不妊治療を行なうクリニックを開業する際、医師がいちばん気にするのは、よい胚培養士と組めるかどうかなのです。

 何しろ卵子や精子を直接扱うのは胚培養士です。
 女性から取り出した卵子に精子を注入する、受精卵を培養、凍結する、こうした1つ1つのプロセスで高い技術が必要です。まず、精子を遠心分離器にかけ、よい精子だけを抽出します。医師が採卵した卵子を回収して短時間のうちに培養庫にしまい、さらに顕微鏡で見て一番良質の精子を選び、卵子に入れます。

 このときの針の差し方が受精率に影響します。受精卵を凍結する際の温度の下げ方にも微妙なさじ加減が必要です。医師が受精卵を子宮に戻すときも、胚培養士がチューブの一番いい位置に受精卵を入れておくことが重要です。正しい位置に入れておかないと子宮の最適な場所に入らないのです。
 胚培養士の仕事はまさに職人の領域であるといえます。

 ちなみに最近では、体外受精の成功率をホームページなどで公表する病院が増えてきました。
 しかし、病院によって妊娠の判定基準が違うので注意が必要です。たとえば超音波で胎のうが見えたのを妊娠とカウントする病院もあれば、血液検査で妊娠反応がちょっとでも上がれば妊娠と判断する病院もあります。
 当然後者のほうが数字がよくなるので、一般の方が見ると、「成功確率の高い病院」に思えます。

体外受精での妊娠の成功率は20%~30%くらい

 厳しい言い方かもしれませんが、不妊治療はそもそも確率が高いものではなく、お金と時間がかかるわりには割に合わないものだということも、現実です。

 初めて体外受精をする人で、「体外受精したら100%妊娠する」と思っていた方がいました。妊娠が成立しなかったことをお伝えすると、「どうしてなんですか!」と驚いていました。さらにその原因もわからないことに、どうしても納得できないようでした。

 たしかに大金を払って、痛い思いもし、夫婦で仕事を休んで頑張っている状況で、原因が不明というのでは腑に落ちないのも当然です。知りたい気持ちもよくわかります。医師としてもはっきりと原因をお伝えできないことを心苦しく思っているのです。

 実際のデータは次回あらためてお見せしたいと思いますが、臨床現場の感覚として、体外受精での妊娠の成功率は大体20%~30%くらいです。
「命を授かる」という、ある意味で神の領域に手を入れているわけですから、まだわからないこと、うまくいかないことが多いのも仕方ないかもしれません。

次回は5月9日更新予定です。


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