さらに刀も使っていない?
忍者を取り巻く誤解の数々

 同様の誤解は、追手の足を止めるためにばら撒かれる撒菱(まきびし)にもある。こちらも手裏剣と同じく、鉄製の物は重量面でもコスト面でも都合が悪い。そこで実際は、植物の菱の実を乾燥させたものが使われていたという。

 さらに忍者が持つ刀は、一般的に四角い鍔の付いた直刀を指して「忍者刀」と呼ぶことが多い。しかし、こうした形状の刀が実在したのは事実でも、これが忍者専用に誂えられたという事実はない。

 現存する記録の中に、忍者が直刀を使っていたという根拠は希薄で、なかには「忍者は最後まで刀を抜くことはなかった」と説く研究者もいるほどだ。たしかに、人知れず情報収集を果たす隠密活動を任務とした忍者が、ひと目でそれとわかる刀を携えていたとは考えにくい。

 研究者の間では、有事に備えて帯刀したとしても、それは脇差程度の小さな刀であったとする説が根強く、武士と異なり敵前逃亡も厭わなかった忍者は、それすらも使う機会が少なかったと言われている。

 こうしてエビデンスに基づいて忍者のリアルを追っていくと、彼らがいかに誤解と脚色に塗れた存在なのかがよくわかる。そもそも、忍者が忍者として描かれる黒装束にしても、近代になって生まれた大きな誤解なのだ。なぜなら、忍者にはひと目でそれとわかる格好をする理由がないからだ。