公務員の道を強いる父と対立

 ヒトラーの父アロイスが息子に苛立ったのは、将来の進路のことで不満があったようだ。

 アロイス自身は小学校を卒業後、靴職人になるべく修行を積むが、一念発起してウィーンに飛び出すと、19歳のときに独学で税務署の採用試験に合格。官吏としての仕事をまっとうした。

 そんな経験から、アロイスは息子のヒトラーにも、自分と同じく、官吏になってほしいと考えた。

 ところが、ヒトラーは、父と同じ道を歩む気はさらさらなかった。『わが闘争』で次のように振り返っている。

「私は、官吏になどなりたくなかった。父は、自分の人生を顧みてあれこれ語って聞かせ、なんとか私に役人志望の気持ちをかきたてようとしたが、そういう試みは、いっさい裏目にしか出なかった」

役所勤めは「吐き気を催す」

 ヒトラーは、学生時代ですでにガキ大将として、子分を従えるのが好きだったという。

 そんなヒトラーからすれば、父の仕事はいかにも退屈だったようだ。続けてこうも書いている。

「役所で椅子に坐って、上司の命令で仕事をすることなど、考えるだけでも吐き気を催す。自分の時間を自由に支配できないからである」