売上高約13兆円、営業利益約1兆2000億円(2023年度決算)と、ここ数年、ソニーグループの躍進が著しい。テレビ事業の赤字から一時期どん底に沈んだソニーは、なぜ復活できたのか? ゲーム、音楽、映画といったエンタテインメント事業が伸長して売上高の6割を占めるようになったのもその一因だが、その根っこにはソニーの「働き方」がある。「配属ガチャ」のデメリットが言われて久しいが、これとは真逆の人事を貫いてきたのがソニーだ。ソニーを40年以上取材し、このほど『ソニー 最高の働き方』を刊行した経済ジャーナリストの片山修氏がソニーの人事の肝を明らかにする。
配属ガチャで離職する
若手社員も少なくない
「配属ガチャ」――。新卒社員の多くは、入社後の配属先に不安を持つ。やりたくない仕事をやらされるかもしれない。パワハラ上司のいる部署に配属されるかもしれない。配属先が、自分の希望や意思に関係なく運次第で決まってしまう。そのことをコインを入れてレバーを回せばランダムにカプセルが出てくる玩具になぞらえ、皮肉を込めて表現した言葉が「配属ガチャ」だ。
希望とは異なる部署に配属された新卒社員の中には、離職を選択する人も少なくない。離職までいかなくても、モチベーションや生産性の低下は避けられない。企業にとっては大損失だ。
なぜミスマッチが起きるのか。若い世代は、自分の価値観を大事にする。価値観が合わなかったり、居心地が悪いと感じた仕事には距離を置く。やりたくない仕事を我慢して続けるのは苦手だ。また、幅広い業務をこなすゼネラリストより、早く専門性を磨きたいという意識が強い。会社が敷いたレールに乗るのではなく、キャリアパスやライフスタイルを自分で選び取り、成長実感を得たいと考えているのだ。
しかし、年功序列や終身雇用にしばられた日本の雇用慣行は、こうした若い世代の価値観に対応できていない。ミスマッチの最大の原因だ。
これまでの日本の会社は、会社の求める人材像に沿って社員を採用し、そのキャリア構築も企業が担っていた。社員もキャリア構築を企業に任せることが普通だった。しかし、年功序列や終身雇用は大きく崩れた。就職した会社で定年まで働けるとは限らない。会社の辞令にしたがって配属された部署で仕事をこなす会社任せのキャリア構築は限界にきている。キャリア構築を会社に委ねることはむしろリスクでさえある。