その結果というべきか、日本企業の社員と企業の信頼の強さを表すエンゲージメントスコアは、世界の最低レベルだ。つまり、会社に対する愛着、信頼、貢献意識を持つ社員の割合が極端に低い。社員がキャリア構築を主体的に管理できないことが理由の1つではないか。

 若い世代は、年配の人たちの働き方を見て、ああいう働き方はやっていけないと思い始めたのだ。このままでは、若い世代の離職は止まりそうもない。

「自分のキャリアは自分で築く」を
創業以来、貫くソニー

 ここに、例外がある。ソニーグループだ。

 ソニーには、「自分のキャリアは自分で築く」という不文律がある。会社が一方的に社員のキャリアを決める「配属ガチャ」とは、一線を画す。

 まず、新卒採用は、職種コースごとに採用を行う「コース別採用」だ。入社後は、社員一人ひとりが主体性を持ってキャリアを構築するための多様な選択肢が用意されている。そこに根づくのは、社員と会社の対等な関係性である。

 ソニーは創業以来、会社と社員の対等な関係を大切にしてきた。創業者の1人の井深大が起草した「設立趣意書」には、「一切の秩序を実力本位、人格主義の上に置き個人の技能を最大限度に発揮せしむ」とある。

 もう1人の創業者の盛田昭夫が新入社員に語り続けてきたのが次の言葉だ。

「ソニーに入ったことをもし後悔することがあったら、すぐに会社を辞めたまえ。人生は一度しかないんだ。そして、本当にソニーで働くと決めた以上は、お互いに責任がある。あなたがたもいつか人生が終わるそのときに、ソニーで過ごして悔いはなかったとしてほしい」

 その盛田が1966年につくったのが、「社内募集制度」だ。自ら手をあげて希望する部署やポストに応募できる仕組みで、マッチングが成立したら3カ月以内に異動が決定する。すでに累計8000人以上がこのプログラムで異動している。

 自律的なキャリア構築は、「配属ガチャ」の末路のやらされ感とは真逆だ。社員は自らの責任で働く場を選び、そこから得た学びや人とのつながりによって自分のキャリアをつくっていく。自分らしさを押し殺して求められる役割に応えるのではなく、自分のキャリアを自分の意思でつかみとるのだ。やりがいとモチベーションはおのずと高まる。