個人と会社が
互いに高め合う関係を築く

 ここへきて空前の好業績を上げているソニーだが、かつて2000年代にはどん底を経験した。04年度にテレビ事業が赤字に転落し、08年度から14年度の7年間の連結純損失の累計は1兆円を超えた。

 求められたのは、復活に向けた新たな挑戦だった。事業ポートフォリオの大胆な組み替えを行い、リソースのシフト、スキルのシフト、マインドのシフトに取り組んだ。同時に、創業以来、受け継がれてきた個人と会社の関係性をいま一度、結び直した。

 新たに打ち出したのは、個人と会社が緊張感を持って互いに高め合う関係である。その関係性の上に立ってつくられたのが、本来の担当業務を続けながら、業務時間の一部を別の仕事に充てられる「キャリアプラス制度」、仕事を通じて高評価を獲得した社員にフリーエージェント(FA)権が与えられる「社内FA制度」、社員自らプロフィールを登録し、必要とするスキルや経験が合致した場合に求人中の職場や人事から声がかかる「キャリアリンク制度」――である。

 これらの制度は、異動を促すためにあるのではない。社員の自律的なキャリア選択を支援するのが目的だ。先ほど紹介した創業者の2人、井深と盛田の理念を具体化した制度といえる。

 賃金制度も変えた。「ジョブグレード制度」を導入し、仕事の役割に応じて賃金を払う制度に移行した。年功序列的要素、属人的要素は払拭された。

 2021年4月のソニーグループ発足にあたっては、人事フィロソフィー「Special You, Diverse Sony」を定めた。「主役はあなた、多様性こそがソニーの競争力」という意味である。

 現在のソニーを牽引するのは、自らの意思でプロジェクトを立ち上げ、さまざまな部署からメンバーが集まって誕生した事業だ。多様な個の集まりが、独創性ある商品やサービスをつくりだしている。

 彼らの肉声と息づかいを拾いながらまとめたのが、『ソニー 最高の働き方』(朝日新聞出版刊)である。一人ひとりがやりたい仕事に挑戦し、果敢に人生を切り拓いていく。会社はチャレンジする個人を後押しする。そこには、個人と会社の幸福な関係性がある。

書影『ソニー 最高の働き方』『ソニー 最高の働き方』(朝日新聞出版)