本書のタイトルは『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』。
このタイトルを聞くと、組織開発を始める際のポイントやスキルが書かれていると思う方もいらっしゃるでしょう。
組織開発を始めるステップは「エントリーと契約」と呼ばれており、そのフェーズで必要とされるスキルや留意点が知識として存在します。
しかし、本書はそのようなスキルや知識を記述したものではありません。
そして、組織開発の手法を解説したものでもない。つまり、組織開発のノウハウ本ではありません。
では、本書で取り扱い、描いているものは何でしょうか?
それは、チームや組織が良くなっていくことに向けて、推進者たちのマインドや姿勢、変革に向けたリーダーシップが醸成されていく過程です。
本書は以下の流れで構成されています。
CHAPTER1では、近年、組織開発が注目され、期待されている背景について、実践に取り組んできた著者たちが伝えます。
CHAPTER2では、組織開発の基本について実践的な観点から説明します。
CHAPTER3では、企業や地域、大学のゼミや学校における、組織開発「的」な事例を紹介していきます。
組織開発「的」という言葉をあえて使ったのは、変化を推進した人々は自覚的に組織開発を実践したわけではないが、組織開発の取り組みとみなすことができる事例が含まれているためです。
CHAPTER4では、日本における組織開発のポイントについて、著者3人が語ります。
組織開発の第一歩は誰でも始められる、身近なところから始められる。
そして、お互いに理解し合うこと、信頼や協働の関係が築かれること、語られる言葉が変わることを通して、組織の風土が変化していき、定着していく。
組織はワンアクション(1回の対話の場やワークショップ)で変わるわけではありません。関わりを通しての相互理解やつながり、関係形成の蓄積によって漸進的に変化していき、人々の意識や行動が変わっていく。
人の体質改善にはある程度の時間、意識や行動の変化が必要とされるように、組織の風土が変わるためにも時間と粘り強い働きかけが必要とされるのです。
本書を通して、組織開発の理論や手法の根底にあるマインドや姿勢について、ヒントや洞察を得ていただけると幸いです。
南山大学 人文学部心理人間学科教授 中村和彦