古代ギリシャでも説得には「感情」が必要とされた
また、冒頭の「職場で新たに定めた業務ルールを徹底したいのに、どうしても守ってくれない同僚」に対しては、よく一緒に仕事をした他部署の課長は、できない理由を問いただすより、やりたくない気持ちや思いに耳を傾けていました。相手からあえて「面倒だ」「大変だ」というネガティブな感情を引き出します。
その際、その課長はうんうんと頷きながら、「面倒だと感じるんですね」といった具合に、丁寧にオウム返しを続けます。ある程度ネガティブな感情が吐き出されたと感じたら、「ルールを守るにあたって、私にできることは何かありませんか?」と尋ね、共感と理解、協力姿勢を伝えていました。
こうすることで、〈話も聞いてくれたし、歩み寄ってくれているし、自分も歩み寄らなければ〉という気持ちを引き出し、その課長は上手に相手に解決策を考えさせ、行動変容を促していました。
この先輩のアプローチも一例にすぎませんが、古代ギリシャの哲学者アリストテレスが説いた修辞学(説得術)でも、論理を意味するロゴス以外に、道徳性や感情を意味するエトス・パトスが必要だと説いています。
正論を押し付ける一辺倒の対応だけでなく、感情を揺り動かして賛同を得るアプローチも手に入れましょう。