変化する「安定・安心・安全」の考え方
多様な価値観の受容が、若手のパフォーマンス向上に

 人は常に「安定・安心・安全」を求めるものですが、時代の変化とともに、その定義も変わってきています。これまでは終身雇用・年功序列の制度に支えられ、一社に長く勤めることが安定につながっていましたが、いまや、その価値観は崩れているといえるでしょう。社会ニーズがどう変化しようと通用する力をいち早く身につけることが、「安定・安心・安全」につながっている。そんな考えが顕著になっています。

 全国求人情報協会が2022年卒学生を対象に実施した『入社1年半時点(2023年11月)の就業意識の実態調査』では、入社直後・入社1年半時点での転職意向の変化を調べています。

 その調査結果によると、入社直後にすでに転職意向がある人は29.3%と3割近くを占めており、さらに、入社1年半時点になると52.4%が転職意向あり(転職を検討している・転職活動をしている・すでに転職した)と回答しています。希望通りの企業に入社した人であっても、18.3%は入社直後からすでに転職を検討しており、企業にとっては、新入社員の入社後の活躍・定着が大きな課題であることがわかります。

 一方で、入社前に自分が働くイメージがついた人は、入社1年半時点での適職意識が高く仕事への納得度につながっている、というデータも出ています。さらに、初任配属先が希望通りだった人や、育成や適性判断のために仮配属があった人ほど、入社後の勤続志向が持続するという可能性も示唆されました。

 未来予測の難しい時代に、情報をいち早くキャッチしながら敏感に動いてきた若者世代。常に環境変化を想定しながら「今の成長スピードで大丈夫だろうか」「もっと他の環境で力をつけたほうがいいのではないか」などと、自分が置かれた立場を見つめながら行動する習慣がついていると言えます。  

 企業は、若い世代の将来への不安感・危機感に理解を示し、高い成長意欲に応えられるよう、一人ひとりの「働く価値観」に合わせて選べる多様なキャリアパスの枠組みを用意していく必要があります。それぞれが自分らしいライフキャリアを選択できるような、丁寧な対話ができる環境づくりが求められていると言えるでしょう。

(リクルート就職みらい研究所所長 栗田貴祥)