建て替えや大規模修繕が行われないマンションの増加は街の景観の悪化ももたらす。老朽化したマンションは東京や大阪といった大都市圏に集中しているが、老朽化したマンションが目立つようになれば「日本の衰退」を印象づけることになるだろう。再開発計画の遅れや見直しを招き、「地域の活力」というより「日本全体の活力」の低下が懸念される。

「住宅弱者」の高齢者と
社会はどう向き合うべきか

 政府は対策として、老朽マンションの再生を推進すべく区分所有法を改正し、建て替えや取り壊しに必要な所有者の同意割合の緩和を図るが、高齢居住者が多いところではこうした手法の効果は限定的だとみられる。

 一方、老朽化したマンションを建て直すことになればなったで、別の問題も起きる。大規模な“高齢住宅難民”を生み出すきっかけとなりかねない。内閣府の「高齢社会対策総合調査」(2023年度)によれば、高齢者の居住形態は民間の賃貸マンションやアパートが5.9%、公営などの賃貸住宅が4.5%で、約1割が賃貸の共同住宅に住んでいる。

 建て替え期間中は分譲マンションの所有者であっても、いったんは別の住宅に移り住まなければならなくなる。マンションを借りて住んでいる人の中には、建て替え後に家賃が大きく上昇して借り続けられなくなる人も出てこよう。