学生と社会人が二分されていないのは、学び続けて自分を高めていく生涯学習が重視されるからでもある。それは、修士や博士に限らない。

 大学は、「夏大学」や「オープン大学」という名前で様々な講座を提供している。また、「大人の高校」と呼ばれる成人のための高校教育に加え、職業学校や自治体、教会が提供する成人教育の講座で学ぶこともできる。学校をやめてしまったり、中断したりした過去があっても、年齢にかかわらず学びなおす制度があるのは、一度レールから外れると、やり直しがしにくい日本との違いだ。

 日本では最近、「リカレント教育」や「リスキリング」が提唱されるようになったが、仕事への還元が重視されていることが、フィンランドの生涯学習との違いだろう。フィンランドでは仕事への還元だけではなく、異なる業種への転職も目的となる。

 もっとも大きな違いは、教養が常に重視されていることだろう。教養は、小中学校の教育計画がすでに強調していることであり、高校や大学、成人教育にも一貫している。フィンランドの教育で、教養主義は一つの柱であり、それは「人生観の知識(Elamankatsomustieto)」でも濃厚だ。

「人生観の知識」の授業とは…

 フィンランドの学校には、「人生観の知識」という独自の授業がある。「人生観の知識」とは聞き慣れない言葉だが、「宗教の授業」の代わりとして、小学校から高校まで選択できる科目だ。「人生観の知識」は、日本の道徳に相当する。

 ただ、「人生観の知識」は日本の道徳よりもはるかに深く広い。また、目指すものも高い。自分自身の道徳を持ち同調圧力にゆるがないこと、自分らしく生きること、人との対話、良い人生、人権、批判的思考、民主主義、政治への参加などは繰り返し現れるテーマである。より具体的に教科書を見ると、次のような問いも挙げられている。