被扶養者制度による「年収の壁」
労働時間短縮で適用を逃れる人も

 このように、社会保険に加入すると、病気やケガをした時に充実した保障を受けられるだけでなく、老後の年金の増額も見込める。メリットは大きいのだが、保険料負担が生じるので、目先の手取りは減ってしまう。

 例えば、月収8万8000円(年収約106万円)の人の保険料は、健康保険が月額4391円、厚生年金保険が月額8052円。その他、雇用保険料なども天引きされると、手取りは月額7万5000円程度(手取り年収約90万円)になってしまう

 一方、働き方を調整して月収を8万5000円(年収約102万円)に抑えると、健康保険料と厚生年金保険料はかからない。雇用保険料が月額500円程度天引きされるだけなので、手取りは月額8万4500円(手取り年収約101万円)を維持できる。

※いずれも24年度。健康保険は東京都の協会けんぽに加入している40歳未満の人の場合。

 これが、いわゆる「年収の壁」と呼ばれるものだ。頑張ってたくさん働いた人よりも、働き方を調整して社会保険の適用を逃れた人の方が、手取りは多くなるという逆転現象が起こってしまうのだ。

 そのため、22年10月の社会保険の適用拡大の時は「社会保険の適用を受けるために労働時間を延長した」という人が6.4%だったのに対して、「社会保険が適用されないように労働時間を短縮した」という人が12.0%という結果になっている(労働政策研究・研修機構「社会保険の適用拡大への対応状況等に関する調査」及び「働き方に関するアンケート調査」結果から)。

 適用逃れを減らすために、23年10月から、短時間労働者を新たに社会保険に加入させるための助成金制度も始められている。だが、今回の制度改正では、従業員数が51人以上の中小零細企業にも対象が広げられている。