就労を妨げる「106万円の壁」
戦時下で国の人口増加策を後押しする形でつくられた「被扶養者」制度は、戦後の高度経済成長期になると、企業が社会保険料を負担せずに安く使える労働力を確保するシステムとして定着していくことになった。
だが、制度の創設から約80年が経過し、家族のあり方も雇用形態も大きく変わった今、「被扶養者」制度は就労を妨げるやっかいな存在になっている。
2016年以降、短時間労働者の社会保険制度は徐々に整備されてきたものの、新たに106万円という「年収の壁」がつくられたことで、これまで以上に労働時間を短縮する動きが労使ともに見られる。
いくら国が適用拡大のための法整備を行っても、保険料なしで社会保険に加入できる「被扶養者」という制度がある限り、扶養の範囲内に労働時間を抑えようとする人はなくならないだろう。
本来、社会保険料は、その人の経済的な負担能力に応じて決められるものだ。職場も、収入も同じ労働者なら、納める保険料も同額のはずだ。だが、現状では、本人の働き方に関係のない、夫などの家族の職業によって、短時間労働者の社会保険の負担は大きな差が出ている。
こうした矛盾を解消し、本当に労働者を守る制度にするためには、「収入の壁」をなくさなければならない。そのためには、少しでも収入のある配偶者は「被扶養者」制度から除外し、所得に応じた保険料を本人が負担するといった大胆な見直しも検討する必要があるのではないだろうか。