課題は「よりAI本来の創造性を生かす」「計算時間と献立の質の両立」

 勝美さんは、プロジェクトの成果と課題をこう分析する。

「大きな成果は、味の素の知見と管理栄養士のノウハウをAIに徹底的に反映できたことです。今後、サービスの成長とユーザー数の増加にともない、蓄積されるデータがAIの真価をさらに引き出すと期待しています。一方で、私たちが『現場はこうだ』『この研究結果によれば』と言いすぎてしまって、正直なところAI本来の可能性を最大限に活かせているか疑問です。もっとAIに委ねる部分があっても良かったかもしれません」(勝美さん)

 常識にとらわれすぎず、「朝食に鍋」を受け入れてみることも、AIの創造性を引き出す鍵となるかもしれない。

 技術面では、計算時間が課題だ。「献立作成の速度を上げることで、さまざまなサービス展開が可能になります。しかし現状では、計算時間を短縮すると献立の質が低下する可能性があり、逆に質を向上させようとすると計算時間が長くなってしまうというジレンマがあります」(村田さん)

 現在の「未来献立」は、最大8パターンの献立を同時に生成する仕様だが、これはユーザビリティと計算負荷のバランスを考慮した結果のようだ。

Laboro.AI エンジニアリング部 エンジニアリングマネージャー 村田裕章さん村田裕章さん Photo by M.S.

 味の素の企業パーパスは、「10億人の健康寿命の延伸」だ。村田さんは、「10億人規模のサービスにすることを考えると、現在のアプローチでは耐えられない部分がある」と語る。「計算量を抑えつつ、現在の品質を維持する新たなアプローチが必要です。例えば、現在のAIとは別に、新しいAIモデルを開発し、両者を競争させることで相互に高め合ったり、2つのAIが協力することで、計算量を下げつつクオリティを担保するような方法も考えられるかなと思います」(村田さん)