私がプロ野球のエクスパンションにこだわるのは、それ自体が日本の一極集中を食い止める一つの地方文化の中心になるばかりか、新球団が下位からスタートして優勝すれば、かつての楽天のように大きな社会変革が生まれると期待するからです。実際、メジャーでは2014年にヒューストン・アストロズがワールドシリーズに優勝するなど、エクスパンションで誕生した弱小チームが優勝するまでに至っています。

 高校野球、大学野球、社会人野球、プロ野球と、日本の野球界はそれぞれ連携がなく、Jリーグとは大きな違いがあります。今や、日本のプロ野球でレギュラーをとる外国人野手はわずかで、投手もリリーフが主になりました。日本の個々の選手の技術は十分海外選手に対抗できるほど発達したのに、ビジネスとしての日本のプロ野球が世界で存在感を発揮できないのは、もったいない話です。今まで大きな改革案が出るたびに反対してきた巨人軍の球界への影響力が落ちた今こそ、飛躍への挑戦に踏み切るべきではないでしょうか。

 たとえば、日本人で6億2000万円の最高年俸となったソフトバンクの柳田悠岐選手(複数年契約のため変動あり)は、メジャーに行かず長期の複数年契約を結んだものの、故障が多く年俸ほどの活躍はできていません。同じくトリプル3を3回も達成したヤクルトの山田哲人選手も、7年契約で5億円の年俸ですが、それに見合う数字が出せない普通の選手になってしまいました。巨人軍の坂本勇人選手も、年俸6億円に見合う数字は出せていません。競争と野心こそが、スポーツ選手を優れた選手に鍛え上げ、ファンの目も肥えて行くのです。

世界で体を張った先人たちに
日本の野球界は応えられるか

 思えば野茂英雄投手は、近鉄と1億円の契約をしていたのに、たった1000万円で大リーグにわたり、メジャーで大ブームを起こしました。大谷翔平は二刀流を主張したため、日本のほとんどの球団はドラフト指名を藤浪晋太郎投手に鞍替えしましたが、今はこれほどの差がついています。

 メジャーのファームになるのか、日米決戦ができるほどの給料が払えるビジネスができるのか、あるいは韓国・台湾・中国とアジアリーグを戦った上で本当のワールドシリーズを米国と戦うか――。ちょっと才能のある選手が出てくると、メジャーにポスティングさせて球団の経営を安泰にさせようとするフロント。その選手にくっついて、ビジネスとして渡米する記者。そういう小さな人間たちの集団ばかりが、日本の野球界を牛耳るようになったように私には見えます。

 先人の野茂やイチロー、そして大谷の大いなるチャレンジと類まれな礼儀正しさや人格に応える改革を、日本の野球界には望みたいものです。

(元週刊文春・月刊文藝春秋編集長 木俣正剛)