「デザイン経営」に不可欠な存在として注目を集める

経営チームにデザインの責任者を参画させる意味とはJUN KATSUNUMA
多摩美術⼤学卒業。NECデザイン、ソニー、⾃⾝のクリエイティブスタジオにてプロダクトデザインを中⼼に、コミュニケーション、ブランディングなど、幅広くデザイン活動を⾏う。国内外デザイン賞受賞多数。デザイン賞審査員も務める。2020年 NEC⼊社、デザイン本部⻑として全社デザイン統括を⾏う。2022年度よりコーポレートエグゼクティブとして、経営企画部⾨に位置付けられた全社のデザイン、ブランド、コミュニケーション機能を統括。2023年より現職。

 23年現在、日本の企業でCDOを設置しているのは、25%ほどといわれている(※)。22年が21%だから、増加傾向にあることが分かる。おそらく今後はさらに増えていくことになるだろう。

 CDOという役職に注目が集まることになったきっかけの一つが、18年に経済産業省、特許庁、有識者会議「産業競争力とデザインを考える研究会」が連名で発表した〈「デザイン経営」宣言〉であった。企業は自らのブランド力とイノベーション力を高めるためにデザインの力を活用すべきであり、そのためには経営チームにデザイン責任者がいる必要がある──。それがこの宣言の主旨である。

〈「デザイン経営」宣言〉を巡っては、現在までさまざまな意見が交わされてきた。主旨には賛同できるが、実現までの道筋が見えにくいと言う人も少なくない。しかし私は、経産省や特許庁が、すなわち国が「デザイン」と「経営」を結び付けることの必要性を明確にした点において、この宣言はあらためて評価されるべきであると考えている。

 この宣言が果たした大きな役割は、それ以前からあった「デザイン拡張」という流れにさらに勢いをつけたことだった。わが国においては、デザインとはモノの色や形に関わるものであるという考えが根付いていた。線を引き、色を決め、モノの見た目を整えること。それがデザイナーの役割であると考えられていたのだ。しかし20世紀の終わりくらいから、そのようなデザインはあくまでもデザインの一部にすぎないという考え方が広まってきた。

 日本においてデザインが「モノの色や形」に限定されていたのは、戦後の日本が技術とものづくりによる立国を目指してきたからであり、それ故に電化製品や服飾やパッケージなどのデザイン以外にデザインというものがあるとは考えられてこなかったからである。しかし、本来のデザインには「課題を解決する力」があり、デザインはモノの色や形にとどまらず、街づくり、新しいビジネスモデル、公共政策、環境問題などもその射程に入れるべきである──。そんな考え方が日本でも一般的になってきた。デザインの役割が拡張したのである。デザインによって企業経営の課題を解決するという考え方も、その延長線上にある。

 これまでも、例えばデザインセンターやデザイン本部といったデザイン専門組織を設置している企業は少なくなかった。そういった組織のメンバーが、経営サイドから課題を与えられることもあった。しかし、CDOの役割は、デザイン本部長の役割とは大きく異なる。経営からいわば「下りてくる」課題に対処するのがデザイン本部であり、自ら経営陣の一員として課題を発見し、デザインの力をもって課題解決の道筋を探り、そこから具体的なアウトプットを生み出していくのがCDOの仕事なのではないかと私は考えている。 

※「ReDesigner Design Data Book 2024」https://lp.redesigner.jp/design-data-book