その理由のひとつとされているのが「分化的同一化理論」です。グレイザーによると、直接接触することはなくても、テレビや映画で見た有名人などを理想とすれば行動の学習が可能だというのです。たとえば、ギャング映画を見て主人公に憧れれば、悪い人間になっていきます。しかし、活躍をしているスポーツ選手などに憧れれば、その人を目標として同一化しようとするのです。さらに、自分自身が善悪の区別に厳格であるというようなポジティブな自己概念を持っていれば、まわりに不良の友人たちがいても、不良グループには入りません。これを「非行絶縁体理論」と言います。
「非行少年」のレッテルが非行を悪化させる?
人は誰かに対し、レッテルを貼って見てしまいがちです。そして、そのレッテルによって見られた人の内面も変わっていくのです。このような事象に関し、おもに非行少年についてベッカーが提唱したのが「ラベリング理論」です。
ある少年がたまたまある犯罪を犯したとします。それは、ただ一度きりのことであって、そのままであれば彼はまっとうな大人になったかもしれません。しかし、彼が検挙され、少年鑑別所に入ったとしましょう。それが知れわたると、彼は「鑑別所にも行った不良」というラベリングをされてしまいます。そして、まわりからそう見られ続けることになり、彼はいつまでも罪を犯し続けるようになるのです。
このラベリングは、司法機関や社会などが行うものです。犯罪を取り締まり、更生の施設に行かせるということ自体が本人にラベリングをし、非行を増長させるという矛盾をはらんでしまっているのです。この対策として、アメリカでは、犯罪化を減らす、できるだけ少年院に入れないようにするなどの対策がとられたことがあります。しかし、犯罪の減少にはあまり寄与しませんでした。結果的には、ひとつの理論だけですべての現象を見るのではなく、さまざまな事情を考慮した上で、対策することが重要となるのです。