同様のものとして、女陰を3本(あるいは3人)の男根が運んでいるようなバッジ(5-4、14世紀頃)も伝わっている。

 それはあたかも、大切な聖遺物をうやうやしく運んでいるかのようにも見えて、ユーモラスでほほえましくさえある。まるで当時のジェンダー関係を転倒させるかのように、ここでは、男性器が女性器に仕えているのだ(ちなみにこれらは、1992年にオランダのコレクターによって設立された非営利団体、中世バッジ財団MedievalBadgeFoundationの所蔵になるもので、そのコレクションは、聖俗合わせて12世紀から16世紀までの数千点に及ぶ。図はいずれもその公式サイトによる)。

キリストの傷痕、見方によっては…美術史家が指摘する「意味深」なウラ解釈とは?5-4 巡礼者の護符のバッジ 同書より転載

 このような男女の性器の組み合わせはまた、どこかヒンズー教の「ヨニ(女陰)」と「リンガ(男根)」を連想させるところがある。とはいえ、だからといってもちろん、ヒンズー教の図像がキリスト教の図像に影響を与えたとは考えにくい。おそらく宗教的なものの根源には、おしなべて性的なものや生殖にたいする崇敬の念があるという意味に解するべきだろう。