すでにドキュメンタリー系のイマーシブ作品で、その没入感と臨場感の高さを味わっていたので、この手法がストーリーテリングに応用された場合に、どのような効果がもたらされるのか、とても興味があった。これ以前にも、META Questシリーズ向けの「The Faceless Lady」という180度3Dホラームービーがあったが、「沈没へのカウントダウン」はApple Vision Proの性能とアカデミー国際長編映画賞を受賞したエドワード・バーガー監督の手腕を融合した点が大きく異なるため、期待感も高まるというものだ。
結論からいうと、まだ課題は残るものの、実写映画のビジュアル表現として、この手法は確実に一つのジャンルを築いていくとの確信が得られた。まずはそのインプレッションを語り、次に舞台裏を紹介し、今後の課題にも触れていこう。
視聴者が映画の中に放り込まれ、一緒に体験する感覚
短編映画「沈没へのカウントダウン」は、どんな映像体験なのか。実際にApple Vision Pro上で観なければ、そのインパクトを伝えられないのがもどかしいところだが、視聴者はもはや鑑賞者や傍観者ではなく、その場に放り込まれて登場人物の一人であるかのように、出来事を体験することになる。
この作品の場合には、海中に潜航した、狭く閉所感のある潜水艦の船内で、敵の爆雷攻撃に晒され、応戦の準備をするも沈没の危機に瀕していくという、通常では経験しえない状況の中に置かれるのだ。
180度の範囲とはいえ、上下左右に視線を自由に変えられるので、主人公たちの動きを追うのとは別に、今自分がいる環境を把握するために、本能的に周囲を見回してしまう。そこにも一切の破綻がなく、艦内の通路の壁面を構成するリベット留めされた鋼板の傷やわずかな凹みが、シーンのリアルさを裏打ちする。これは米海軍から退役した潜水艦を借り受け、その内部で撮影したのかと思ったのだが、後からメイキング映像(https://youtu.be/eYJcUtVIB_g)を見たところ、逆にそうではなかったことに驚いた。