武術を取り入れた体操で怪我が激減
「体がラクになる」と好評に

 小柄な甲野さんから「今から技をかけるから耐えてみてね」と言われました。格闘家である自分が技にかかるわけないと思っていたのに、簡単にひっくり返されてしまって……。なんだこれはと、衝撃でした。

 その後武術に適した体をつくる「練功」(れんこう)を中心に、さまざまな体操法を研究しました。そうして編み出した体操で、自分自身の体がラクになっていくのを感じたのです。武術に出会った2004年、20代後半からは怪我(けが)も激減しました。

 当時は格闘家の傍ら、ジムでトレーナーをしていたのですが、膝や腰の痛みなどの不調を抱えた人にもその体操を勧めると、その方々にも同じように「体がラクになる」と言われました。「教えてもらった体操をして1日3万歩を3日連続で歩けた」と報告してくれた、80歳の方もいました。

 同じ頃、武術の経験者で体育学の権威である東京大学名誉教授の小林寛道先生に出会いました。小林先生は約7000人を対象に、力を抜くことで体を支える深層部の筋肉「インナーマッスル」が活性化して太くなることを実証していました。理論的裏付けを得て「頑張らなくても効果の出るトレーニング」=体芯力体操を考案したのです。

 多くの人は日常生活で感じる以上の負荷を体にかけなければ、トレーニングの効果がないと思い込んでいるでしょう。「過負荷の原理」といいますが、もちろんそれによって筋肉量は維持、増量できます。けれどもそれだけしか方法がないわけではありません。

筋トレをしなくても
筋肉量を維持できる

 実際に私は力を入れる筋トレをしなくても、この筋肉量を維持できています。ひとつには「関節運動反射」といって、関節の動きを良くすることで筋肉量が維持できるのです。それには凝り固まった筋肉を緩め、関節の機能を正常化させることです。

 元プロ野球選手のイチローさんも、かつてテレビ番組での対談で「ウエートトレーニングをしていた時期はスイングスピードが落ちた」と告白しています。「筋肉が大きくなっても、支えている関節などは鍛えられないから体が壊れる。持って生まれた体のバランスを崩さず、人体の動きを理解してプレーすることが重要」と話しています。

 筋トレを重視し、体の表面を取り巻くアウターマッスルを硬く鍛え上げてしまうと、どうしてもしなやかさが失われ、内側にあるインナーマッスルが動かなくなってしまうのです。反対にインナーマッスルがしっかり使えていると、アウターマッスルの力みが抜けていきます。つまり、インナーマッスルがしっかり使えている人のアウターマッスルは柔らかいのです。

 現代では筋トレを行っていない人、スポーツ選手でない人も、緊張によってインナーマッスルが使えなくなってしまう人が多いです。こうした状態を解決するには、脱力し、自然な揺らぎを取り戻すことが第一です。

 特に現代社会では誰しも「目」が緊張しています。目の緊張は、体全体の力み(緊張)や疲労につながります。次回は目の疲労がほぐれるポーズを紹介しましょう。

>>第2回「【腰痛・肩こり・目の疲れ】が一瞬でほぐれる“すごい”呼吸法…「ある部位」を動かすと首・肩・腰が連動する​」は11月1日(金)配信です。