一方で、幼児期の子どもには考える力はまだ十分に発達していません。この考える力がしっかりと備わるのは、だいたい9歳頃からと言われています。
9歳の壁を越える時期には
個人差がある
9歳、10歳頃になると、子どもの脳の思考方法が変化していきます。それまで優位だった記憶力に加え、論理的な思考力が育ってきて、抽象的な概念も徐々に理解できるようになっていくのです。その結果、物事の因果関係を理解したり、推測したりする抽象思考が発達していくと考えられています。国語の読解問題や算数の図形問題、文章題など、より複雑で難しい問題に取り組めるようになるのも、この時期からです。
これが「9歳の壁」と呼ばれるものです(10歳の壁とも言われます)。
この壁を乗り越えることで学習の幅が広がり、さらなる成長が期待できるのです。
しかし、9歳の壁を越える時期には個人差があります。ある子どもは9歳になる前にこの壁を越えるかもしれませんが、別の子どもはもっと遅くになることもあります。
この壁を乗り越えていない子どもは、学習レベルが上がってくる小学3年生、4年生頃から勉強面でつまずくことが多いとされています。
ですから、この時期は教育において一つの大きな分かれ目となる大事な時期なのですが、こうした個人差を無視して、まだ壁を越えていないうちから難解な中学受験のための塾に通わせたりすると、勉強についていけずに子どもが学ぶことへの興味や自信を失ってしまうことがあります。
塾での勉強の進捗(しんちょく)に子どもを無理やり合わせようとすると、子どもが「できない自分はバカなのだ」と思い込むなど、この時期の勉強の遅れが原因で無用な劣等感を抱いてしまうこともあり、周囲の大人は注意が必要です。
しかし、前述のように9歳の壁を越える前の子どもは単純記憶力が非常に高い状態なので、この時期までに語彙は当然ながら、九九や漢字、歴史の年号などを覚えさせると、相当の量を記憶できることがあります。
これが子どもの自信につながるのです。
その後に、他の子どもたちよりも遅れて9歳の壁を越えることになったとしても、その記憶力を活かして勉強に取り組んできた知識の蓄積がありますから、その知識をフルに活かして他の子に勝てる可能性も高まります。
その意味でも、就学前から子どもの語彙力を伸ばしておくことは有益です。
小さなうちから語彙を増やし、親子の会話を通して引き出しをたくさん備えて思考力の土台をつくっておくことが大事なのです。