続いて、今回取り上げる指標である、配当性向と総還元性向についても見ていこう。

 配当性向とは、配当総額を当期純利益で割ったもので、親会社の株主に帰属する当期純利益のうち、何%を配当に回したのかを示す指標である。また、総還元性向とは、配当総額に自社株買い(市場に出回っている自社の株式を買い戻すこと)の金額を加えたものを当期純利益で割ったものだ。配当性向は、配当金だけを捉えた株主還元指標であるのに対し、総還元性向は、配当金に加えて自社株買いによる株主還元も含めた指標となっている点にその特徴がある。

 パナソニックHDの有価証券報告書に記載のある「配当政策」から配当金の総額を調べてみると、中間配当と期末配当がそれぞれ約410億円、合計で約820億円となっている。これを当期純利益(約4440億円)で割ると、配当性向は約18%と計算できる。当期純利益の5分の1弱を配当金に回しているということになる。

 一方で、自社株買いに支払った金額(正確には、自社株の取得に支払った金額から自社株の売却で得た金額を引いたもの)をキャッシュ・フロー計算書における財務活動によるキャッシュ・フローの項目から見てみると、パナソニックHDはほとんど自社株買いを行っていないことが分かる。そのため、総還元性向は配当性向とほぼ同じ(約18%)だ。

 ここまでで、日立製作所とパナソニックHDの事業再編と、パナソニックHDの決算書および株主還元指標について説明してきた。後編では、日立製作所の決算書の特徴を見ていくとともに、両社の株価に明暗が分かれた要因について解説しよう。

矢部謙介(やべ・けんすけ)/中京大学国際学部・同大学院人文社会科学研究科教授。ローランド・ベルガー勤務などを経て現職。マックスバリュ東海社外取締役も務める。X(@ybknsk)にて、決算書が読めるようになる参加型コンテンツ「会計思考力入門ゼミ」を配信中。著書に『決算書の比較図鑑『武器としての会計思考力』『武器としての会計ファイナンス』『粉飾&黒字倒産を読む』(以上、日本実業出版社)『決算書×ビジネスモデル大全』(東洋経済新報社)など。
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